(補説) 固定資産税等が高いと思ったときの争い方
1 寸地尺土の争い
土地の境界争いは,結構,複雑で,裁判所には分かり難い特徴を持つものです。
寸地尺土であっても,武力を用い,命をかけて争った時代もあったのです。
その寸地尺土の争いを起こさないように,境界の明示に関しては,神経を使ってほしいものです。
2 境界明示条項をめぐる争い
境界明示に関する条項には,
(1)境界を明示する義務を免除する条項
これは破産管財人が破産財団に属する土地を売却する場合などに書かれます。
理由としては,①破産管財人は,一般に,隣地との境界を知らないこと,➁後日境界が明確ではないという理由で,売買契約が解除されるリスクをなくすることなどがあります。
「売主は,買主に対し,本件土地の境界については明示しないこととする。」と書くのがよいでしょう。
(2)明示義務だけを定め,具体的に明示方法を定めない条項
例えば,「売主は,買主に対し,本件土地の境界については明示する。」というような条項ですが,これが紛争になりやすいのです。
売買契約前の時点で,隣地所有者との間に「境界確定協議書」が作成され,境界標が設置されている場合は,その書面を交付し,境界標を指さすだけで境界明示はできますが,そういうものがない場合は,境界明示義務に関しては,一般的にいって,売主は境界を指させば明示したことになると考える傾向があるのに対し,買主は,売主が隣地所有者の立会いの下で境界の確認をし,隣地所有者との連名による「境界確定協議書」を作成し,確認した境界に境界標を設置するところまで要求する傾向があるのです。
ですから,境界明示を定める場合は,売主がどこまですれば,境界を明示したことになるのかを,具体的かつ明確に書いておく必要があるのです。
例①「売主は,買主に対し,本件土地の境界については現在ある境界標を指示することをもって,境界明示とする。」や,例➁「売主は,引渡し期日迄に,本土地に隣接する全ての宅地及び官有地との境界について,隣接地所有者との間で取り交わされた境界確認書及び道路敷地境界証明書を買主に交付するものとし,当該書面の交付を以って,買主に対し,境界を明示したものとする。」
などの条文が考えられます。
(3)紛争実例
あるマンション建築会社は,マンション建築のために買った土地の境界について,売買契約書には「売主は境界を明示する」とだけしか書いていなかったにもかかわらず,専有部分(マンションの住戸)を売るには,「境界確定協議書」の写しを,専有部分の買主に交付する必要があるという理由で,それが準備できない買主の債務不履行を理由に土地の売買契約を解除する意思表示をして,紛争が生じたことがありますが,土地の買主が売主に対し,隣地所有者との「境界確定協議書」まで要求するのであれば,そこまでの義務を売買契約書に書いておかなければなりません。注意すべきことです。
いずれにせよ,売買契約は締結できたが,決済の時までに,境界明示の方法に関して紛争が生じ,決済ができなくなるというケースは,決して希なケースではありません。
その場合,自己に非があれば,違約金を支払い,相手方に非があれば,違約金をもらえるという関係になるのですが,売主,買主とも,自己に非があるとは思わないのが,この境界明示問題の特徴です。
この問題は,「境界明示に関し,売主買主間で紛争が生じた場合は,双方いずれからも,本契約を解除することができる。この場合,相手方に対し違約金や損害賠償請の請求はできないものとする。」くらいの条項を書いておきたいものです。
3 境界紛争があることは,瑕疵になる可能性が大きいので,契約書の中に明確に書いて置くこと
境界紛争がある場合は,これは瑕疵になる可能性が大きく,売主には,買主に対し,告知しなければなりません。
その上で,「売主と本件土地の東隣地の所有者間には境界について争いがあること,売主は買主に対し境界争いを解決する義務を負わないことを,買主は承知する。」というような条項を書いておくとよいでしょう。
4 建物の越境問題
境界に争いがない場合でも,売買対象の建物が隣地に越境しているとか,隣家が売買対象の土地に越境して来ているとかいう問題があれば,これも売主から買主へ告知する義務があります。