9 手付解除はいつまでならできる?
生くるに目的あり,住むに目的あり,したがって,買うに目的あり,でありましょう。
目的の達成できない買い物は,解除できること,法が教えるところです。
では,何故,人は,契約書に目的を書かないのか?
「眺望絶佳というので買う」,「自殺など忌まわしき履歴がないというので買う」などと・・・。
ここで,本連載コラムに書いたことですが,目的に反する買い物は,直ちに売買契約の解除ができることを思い出してください。
法は,自ら助くる者しか助けないのです。
その法の1つである売買契約書には,売買の目的を書いておきたいものです。
そして,目的に反する売買契約であることが分かったときは,売買契約を解除できることを明記するべきでしょう。
1,リゾートマンションは何のために買うのか?
最高裁平8.11.12判決の事案は、リゾートマンション1室を購入した買主が、その売買契約と同時に、同マンション内に設置が予定されていた屋内プールを含むスポーツ施設を利用する会員契約を結んだのですが、室内プールなどが予定された時期に完成しないため、売買契約を結んだ目的が達成できないとして、マンションの売買契約及び会員権契約を解除した事案です。
原審の高裁判決は、①マンションの売買契約と会員契約とは別個の契約であること、②買主が屋内プール等のスポーツ施設を利用することがその重要な動機となってマンションを購入したことがうかがわれないではないが、そのことは売買契約書に何ら表示されていなかったこと、を理由に、屋内プール等の完成の遅延が本件会員契約上の債務不履行に当たるとしても、買主がマンションの売買契約を解除することはできない、と判示しました。
これに対し,前記最高裁判決は、詳細な事実関係を指摘しつつ、「同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて,社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。」と判示して、買主からのリゾートマンション売買契約の解除を認めました。
2,ここから学ぶべきこと
契約書に契約の目的や動機を書いておくことです。
上記事件で,原審高裁判決は,本件売買契約書には目的も動機も何ら書いていないじゃないか,書いていない以上,スポーツ施設が利用できないことが直ちに売買契約の目的を達成できないとは言えないじゃないか。だとすると,売買契約を解除などできるものじゃあない。という判決でした。しかし,最高裁は,この事件では売買契約書に目的動機は書かれていなくとも,当該マンションを買う目的がスポーツ施設を使うことであることは自明のことじゃあないか。スポーツ施設の使えないリゾートマンションなんて,音の出ない楽器と同じじゃろう(とは,言っておりません。これは筆者のジョークを挿入したものです。)。だとすると,スポーツ施設が使えないリゾートマンションの売買契約を解除することは認めてもよい,というものでした。
ですから,売買契約書には目的を書いておくべきです。
例えば,「スポーツ施設を利用するため」とか「岡山城が眺望できるから」とか「周辺の人たちが温和で楽しい日常が過ごせるから」などと書いて置くと,岡山城が眺望できない住戸であったり,近所に難しい人や怖い人がいたような場合(これらのことが瑕疵になることは以前のコラムで紹介しました。)は,売買契約を解除できることになります。
不動産の売買契約は,夢を実現し,希望を膨らませるために結ぶものです。
売買契約書くらい,その夢と希望のあることを明記することは簡単にできることですので,そうすべきでしょう。