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12 自殺の履歴はいかなる法律問題を提起するのか?

菊池捷男

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テーマ:不動産法(売買編まとめ)

 不動産にまつわる忌まわしい履歴
それが不動産の瑕疵であることは,宅建業者なら先刻承知です。
 筆者が顧問をしている会社(宅建業者)は,そのような情報をも,細かく調べ,買主に書面で知らせています。
いささかも,買主に不測の被害に遭わさないために。
会社としての矜持が見える姿勢です。
しかし,一方では,自殺の履歴など,あっても,教えるものじゃあない,売買がまとまらなくなるから,と嘯く宅建業者もいるのです。

告知義務
 
 (1)一般論
 一般に,建物内で自殺があった場合、その建物は瑕疵があるということになっています(横浜地裁平成1.9.7判決)。ですから買主は、売主に瑕疵担保責任を追求することができますが、売主に注意義務違反があるときは不法行為にもなりますので、買主は売主に対し不法行為に基づく損害賠償の請求もでき,この場合は慰謝料まで請求できる場合があります。

(2)不法行為における事例
 東京地裁平成18.7.27判決は、
 競売物件を購入してこれを転売することを事業目的としている不動産会社A社が、競売事件で買い受けた物件内に自殺があったことに気が付かず、これをB社に転売したことによりB社に損害を与えたとして、A社に損害賠償義務を認めた判決です。
 競売物件は、通常、①執行官が作成する現況調査報告書,②評価人である不動産鑑定士が作成する評価書,それと③裁判所書記官が作成する物件明細書(この3つの書類のことを実務では「三点セット」とよんだりしています。)を見て、現況や権利関係を知ることができるのですが、この事件では、現況調査報告書に、その家の妻が自殺したことが書かれ、さらに、評価書には、「事故(自殺)物件である。」との記載をした上で、「評価額の判定」欄には「事故物件等により市場性修正率として50%を控除した。」との記載までなされていたのですが、競売でこの物件を買い受けたA社は,これに気がつかず,そのことを顧客Bに告げず,Bに転売したことで注意義務違反があったとされたものです。

 なお,このAとBとの売買契約を仲介した宅建業者には、競売物件の三点セットの調査義務はないとされ、不法行為にはならないとされました。

(3)自殺者がいた場合の不動産の評価損
⑴ 悲惨な自殺事件で,鑑定は50%の評価減,判決は25%の評価減をした事例
 前述の東京地裁平成18.7.27判決のケースでの不動産鑑定評価は、この件の不動産の市場性を,その建物内において,父親に殺害された子の妻がそれを知った直後建物内で自殺した悲惨さから,50%(市場性修正率)としましたが、判決は、自殺した場所となった建物は取り壊わしされる予定であったことを理由に25%減の評価とし,A社に,B社が支払った売買代金の25%相当額の賠償を命じました。

⑵ 慰謝料の名目で2500万円(売買価格の11.4%相当)の損害賠償を認めた事例
 東京地裁平成20.4.28判決は、マンション1棟を購入したが、その後それより約2年前に飛び降り自殺があったことを知った買主からの損害賠償請求事件ですが、自殺による財産的損害の立証の困難さから、民事訴訟法248条の「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」との規定により、慰謝料として上記の金額の支払を命じました。

⑶ 自殺による影響は軽微だとして、購入した不動産の1%を損害と認定した事例
 東京地裁平成21.6.26判決は、賃貸用のマンションを購入した買主が、その後その建物で自殺をした者がいることを知り、損害賠償の請求をした事例ですが、判決は、自殺者は、建物内で睡眠薬の服毒自殺を図ったが、病院に搬送され、そのときから2週間後に病院で死亡したものであること、判決時が自殺から5年以上経過していること、その建物を新たに賃貸する場合、自殺の履歴が借受け希望者に当然に告知しなければならないような重要な事項ではないと考えられることを理由に、損害額を購入価格の1%と認定しました。

このような裁判例を見ますと,自殺の履歴が不動産の評価減につながる割合は,ケースにより大きなバラツキがあることがわかります。

(4) 宅建業者は,どこまで遡って過去の自殺歴を告知しなければならないのか?
 過去に,財団法人日本賃貸住宅管理部会が発行した「最近の相談事例に学ぶ賃貸住宅管理のあり方」によれば,自殺者がいたという履歴についての宅建業者による告知は,過去6年程度の間の自殺事件の告知が望ましいとされています。参考になることと思います。

(5) 20年以上前の自殺であっても,売主には告知義務があるとした裁判例あり
 だがしかし,高松高裁平成26年6月19日判決は,20年以上も前の自殺の履歴に関して,「マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにもかかわらずあえて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい以上、売主が本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合には、これを買主に説明する義務を負うものというべきである。」と判示し,売主が自殺の履歴を買主に告知しなかったことを不法行為になるとして,慰謝料の支払義務を認めました。

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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