32 誤解するなかれ,建築条件付き特約を
これも遠慮は損慮です。売渡承諾書を書いても,買付証明書を書いても,売買したくないと思えば,遠慮なく,“やっぱり売買はしません。”と言ってよいのです。
(1) 契約の成立要件
契約は、一方当事者の「申込」と,相手方当事者の「承諾」による,意思の合致としての合意,で成立し(これを「諾成契約」といいます。)、必ずしも書面の作成は必要ではない,とされていますので、不動産売買の場でしばしば見られる,買受希望者が「買付証明書」を作成しこれを仲介業者に渡す行為が,売買契約の「申込」になり、不動産の所有者が「売渡承諾書」を作成してこれを仲介業者に渡す行為が,「承諾」にになり,これらの書面が仲介業者を介して,買受希望者と所有者間で交換された時に,売買契約が成立した,といえるのはないか?との疑問が出そうですが,不動産の売買契約の重要性の観点から,これは否定的に考えられています。
(2)裁判例
大阪高裁平成2年4月26日判決は,「いわゆる買付証明書は、不動産の売主と買主とが全く会わず、不動産売買について何らの交渉もしないで発行されることもあること、したがって、一般に、不動産を一定の条件で買受ける旨記載した買付証明書は、これにより、当該不動産を右買付証明書により記載の条件で確定的に買受ける旨の申込みの意思表示をしたものではなく、単に、当該不動産を将来買受ける希望がある旨を表示するものにすぎないこと、そして、買付証明書が発行されている場合でも、現実には、その後、買付証明書を発行した者と不動産の売主とが具体的に売買の交渉をし、売買の合意が成立して、初めて売買契約が成立するものであって、不動産の売主が買付証明書を発行した者に対して、不動産売渡の承諾を一方的にすることによって、直ちに売買契約が成立するものではないこと、このことは、不動産取引業界では、一般的に知られ、かつ、了解されている。」と判示しているところからも,明らかです。
(3) 商習慣
不動産適正取引推進機構編著の『不動産仲介の法律知識』59頁は、売渡承諾書や買付証明書は、購入、売却の可能性を表明する文書であって、確定的意思表示ではなく、随時撤回・取消・否認できるものとして取り扱うのが商習慣だと述べているところです。
(4) 損害賠償請求の理由にならない
買付証明書や売渡承諾書を発行しただけでは,それを受け取った人に,売買契約締結の期待を持たせても,何の責任も生じません。売買契約を締結をする義務はありません。