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不動産 マスターレッシー(ML)が倒産した場合

2015年7月22日 公開 / 2017年9月8日更新

テーマ:不動産法(賃貸借編)

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 投資信託

1 マスターレッシーの意味
 マスターレッシー(ML)とは,次のような不動産(建物)所有者のする不動産収益事業で,不動産を賃借しこれをエンドテナントに転貸する事業者をいう言葉です。
 無論,この言葉は,法律用語ではありません。
①不動産ファンド,例えばJ-REIT(日本版不動産投資信託)が不動産を賃貸する場合
➁不動産信託の受託者,例えば信託銀行が不動産を賃貸する場合
③賃貸用建物の建築主が,一定の家賃保障を得て建物を一括して不動産管理会社に賃貸する場合

2 契約の呼称
 建物の所有者(不動産ファンド,不動産信託の受託者,賃貸マンションのオーナー)とマスターレッシーの賃貸借契約を「マスターテナント契約」といい,マスターレッシーとエンドテナントとの転貸借契約を「サブテナント契約」という場合もあれば,
 建物の所有者とマスターレッシーとの賃貸借契約を「サブテナント契約」といい,マスターレッシーとエンドユーザーとの転貸借契約を「テナント契約」という場合(東京地方裁判所平成21年9月28日判決の例)があるようです。
図式
 賃貸人(不動産の所有者) → 賃借人兼転貸人(ML) → 転借人(エンドユーザー)
            賃貸借契約                   転貸借契約
            (マスターテナント契約)         (サブテナント契約)
            (サブテナント契約)                (テナント契約)

3 マスターレッシーの倒産
 2008年(平成20年)のサブプライム・ローン問題を契機とした不動産不況の中で,マスターレッシーの倒産が頻発したとされています。

4 マスターレッシーの倒産に関する諸問題
 金融財政事情2011.11.14号及び同2011.11.21号の「マスターレッシーの倒産に関する諸問題」(上)(下)によれば,
⑴ マスターレッシーが破産した場合の破産管財人は,テナントが賃借権について対抗要件を備えている場合は,双方未履行の双務契約に関する倒産法の規律は適用されない(破産法56条1項)ため,テナント契約(マスターレッシーとテナントとの転貸借契約)は存続する。
⑵ マスターレッシーの破産管財人には,①マスターレッシーとしての地位を維持し,マスターリース契約(建物所有者とマスターレッシーとの賃貸借契約)及びテナント契約を存続させる場合と②マスターレッシーからの地位から離脱(ステップアウト)する場合の二つの方針が考えられる。 
⑶ マスターレッシーの破産管財人は,マスターリース契約を,破産法による双方未履行の双務契約の解除権に基づき解除した場合,テナントを建物から退去させたうえで建物所有者に返還する必要があるが,テナントがただちに退去に応じるとは限らないことから,かかる返還義務の履行に時間とコストを要することがありうる。
⑷ マスターレッシーの破産管財人が,マスターリース契約を解除しない場合,マスターレッシーがその地位から離脱するためには,建物所有者及びテナントの同意をえた上で,①マスターレッシーがテナント契約上の賃貸人(転貸人)たる地位を建物所有者に移転し,建物所有者とテナントとの間の直接の賃貸借契約とするか,②マスターレッシーが第三者にマスターレッシーとしての地位及びテナント契約上の賃貸人(転貸人)たる地位を承継させるか,いずれかの取扱をすることが考えられる。
⑸ マスターレッシーの破産管財人がマスターリース契約を双方未履行の双務契約として解除した場合においても,建物所有者が別途テナントと合意してテナントによる建物の継続使用を認め,マスターレッシーの原状回復義務を免除することもありうる。
⑹ なお,建物所有者のマスターレッシーに対して有する建物の原状回復を請求する権利が,財団債権か破産債権になるかについては争いがある。
などが紹介されています。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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