継続的契約の一方的な解約は許されるか?
1 「反射的」という言葉
「反射的」とは,刺激に対して瞬間的に反応するさま,といういう意味の,一般用語(形容動詞)です(「大辞泉」より)が,法律学を説くなかで,「反射的」という言葉が,「反射的利益」や「反射的効果」という言葉として使われることが多々あります。
これら「反射的利益」や「反射的効果」という言葉は,法律用語ではなりませんので,この言葉から,権利が発生したり消滅する法律効果は生じません。
2 反射的利益の意味と,この言葉が使われる場面
反射的利益とは,法律上の権利とはいえないが,法律が公益をはかることによって間接的に私人にもたらされる利益をいいます。法律上の権利は,それが侵害されたときは,裁判所に救済を求めることができますが,反射的利益は,仮にその利益が侵害された場合でも,裁判所に救済を求めることはできません。
3 判例1(行政が設置した施設について)
最高裁判所平成22年2月23日判決は,市がと畜場法に基づき設置したと畜場を,事実上独占的に利用してきたと畜業者が,と築場の廃止により損失をを受けたとして,その補償を求めた訴訟で,「利用業者等は,市と継続的契約関係になく,本件と畜場を事実上独占的に使用していたにとどまるのであるから,利用業者等がこれにより享受してきた利益は,基本的には本件と畜場が公共の用に供されたことの反射的利益にとどまるものと考えられる。・・・利用業者等が本件と畜場を利用し得なくなったという不利益は,憲法29条3項による損失補償を要する特別の犠牲には当たらないというべきである。」と判示しているように,反射的利益を失っても,損失補償を請求することはできないと判示しているのです。
4 判例2(私人が設置した施設について)
最高裁判所平成12年1月27日判決は,原審が,「一般人は、建築基準法42条2項の規定による指定を受けた私道について、その反射的利益として自由に通行する権利を有し、右通行が妨害された場合には、通行妨害の態様、指定された道路の使用状況等によっては通行の自由権(人格権)に基づき、通行妨害の停止や予防を請求することができる。」という一般論を定立し,「本件ポールの設置により緊急自動車の進入が制限される事態の発生も予想されるから、・・・本件ポールの撤去を求めることができる。」と判示したのに対し,反射的利益に基づく妨害排除請求を否定し,原審判決を破棄しました。
この判決は,「その反射的利益として自由に通行する権利を有し」という関係を認めていないのです。反社的利益は,あくまで,反射的に受ける利益でしかなく,権利ではないといっているのです。
なお,同判決は,建築基準法42条1項5号の道路や同法42条2項の「道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する」権利は認めていますが,これは,一定の要件の下で,権利として認められるもの(妨害排除など)はあるが,その要件を満たしていない場合には権利はない,といっているのです。そして,この件では,「被上告人らは、・・・右共有地を居住用としてではなく、単に賃貸駐車場として利用する目的で本件ポールの撤去を求めているにすぎないというのであるから、被上告人らが本件私道を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえない。」と判示して,人格的権利の侵害による妨害排除請求は認めませんでした。
要は,判例は,反射的利益という概念を,“権利ではないが,事実上享受できている利益”のことをいっているのです。