成年後見人からの質問 事前に葬儀費用を被後見人口座から出しておきたい・・・
1 契約締結上の過失論
契約締結上の過失論とは、契約が成立しなかったために,契約責任を問うことはできないが,相手方の態度からみて,契約が締結されるものと信じ,契約が締結されることを前提に先行的に金銭の支出をしている場合は,契約が成立しない場合でも,その金銭の支出による損害賠償請求ができるという理論である。
2 裁判例
⑴ 最高裁昭和59年9月18日判決
同判決は,マンション分譲業者甲が,歯医者乙との間に,マンションの一室の売買契約の交渉中,乙の希望する電気容量を確保するため,マンションの受水槽室を変電室とする設計変更をし,電力会社との間で電気容量の変更を行う手続を行うこと及びそれには約500万円かかることを乙に告げ,工事を始めたが,乙はその工事の中止を求めることはせず,その後も右設計変更を容認する態度に出ていたが,売買契約締結直前になって,売買契約を結ばないと言い出した事件で,歯科医乙の契約締結上の過失を認め,甲に生じた損害に対する賠償を命じた(損害費目の詳細は不明だが,電気容量の変更工事費用を認めたものと思われる)。
⑵ 福岡高裁平成5年6月30日判決
同判決は,不動産売買契約交渉で,①坪あたりの単価,売買代金と所有権登記を行う日及び方法等契約の重要な部分について合意ができ,②所有権移転登記申請手続へ売主,買主とも記名押印をし,かつ,③買主が売買代金の融資を受ける段階まで至ったのに,売主が売買契約書への署名を拒否したため,買主に融資の利息や手数料,それに司法書士に支払った登記手数料の損害を生じさせた事件で,これらの賠償を命じた。
⑶ 大阪地裁平成11年1月29日判決
同判決は,広告会社甲が,注文者乙との間に,パンフレットの制作,広告宣伝などの契約交渉をしている途中で,乙の同意をえて,一部を下請に出したが,突然乙から一方的に交渉を打ち切られたという事件で,下請に支払ったパンフレットの制作費等について,甲の乙に対する損害賠償請求が認められた。