遺留分減殺請求権が,消滅時効にかかっていなかったケース
1,前回コラムの解説
前回のコラムでは,
①相続分の指定によって,遺留分が侵害された場合は,遺留分減殺請求により,相続分の指定が減殺されることになる。
②遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。
(以上は,最高裁判所平成24年1月26日決定の判示部分の前半)
ということでしたが,この最高裁決定には,後段部分があります。
その前に,相続分の指定の減殺と,遺留分の額の確保とはイコールでないことを理解していただく必要があります。
2,相続分の指定の減殺の効果
相続分の指定の減殺により,遺留分権利者が確保するのは,相続財産に対する遺留分割合だけです。
* 相続分の減殺 = 相続財産×遺留分割合(この件では,ABC各自1/20)
相続財産 = 被相続人が相続開始の時に有していた財産 - 遺贈財産(「相続させる」遺言による特定の財産を含む。)
3,相続分の減殺の効果と遺留分の額の回復とはイコールではない。
最高裁判所平成8年11月26日判決は,「・・・遺留分の額は、・・・(a)被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額に(b)その贈与した財産の価額を加え、その中から(c)債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、(d)それに・・遺留分の割合を乗じ、・・・算定すべきものであ」ると判示しているように,
* 遺留分の額 = (被相続人が相続開始の時に有していた財産 + 生前贈与の額 - 債務の額) ×遺留分割合
ですので,相続分の指定の減殺イコール遺留分の額の回復ではありません。
最高裁判所平成24年1月26日決定事案では,相続人の1人が生前贈与を受けていたため,その生前贈与の額の遺留分割合分だけ,遺留分権利者の遺留分の額が増えることになります。
同最高裁決定も,「したがって,・・・本件遺言による相続分の指定が減殺されても,抗告人ら(ABC3人のこと)の遺留分を確保するには足りないことになる。」とした上で,次に論を進めているのです。
3,遺留分の額を確保する計算方法
最高裁判所平成24年1月26日決定は,続いて,「(相続分の指定の減殺請求は)・・・抗告人(遺留分権利者であるABCのこと)らの遺留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対するAの生前の財産処分行為(贈与のこと)を減殺することを,その趣旨とするものと解される。そうすると,・・・本件遺留分減殺請求により,・・・当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。」と判示しました。
4,生前贈与の減殺は,生前贈与が持戻し免除の意思表示がなされている場合でも可能
なお,同最高裁決定は,「遺留分減殺請求により・・・特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示・・・は,遺留分を侵害する限度で失効」すると判示しています。
5,まとめ
最高裁判所平成24年1月26日決定の判示部分をまとめますと,
①相続分の指定によって,遺留分が侵害された場合は,遺留分減殺請求により,相続分の指定が減殺されることになる。
②相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。
③(生前贈与があるために)相続分の指定の減殺だけでは,遺留分の額が確保できない場合は,その限度で,相続人が被相続人から受けた生前贈与が減殺される。
④その場合は,遺留分権利者の遺留分の額を確保する限度で,生前贈与に係る財産の価額が,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。
⑤当該生前贈与につきなされた持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効する。
ということになります。