民法雑学 最高裁の破棄判決例と囲繞地通行権
1,対抗関係
民法177条は,不動産の取得は,登記しないと第三者に対抗することができないという規定です。
例えば,甲が乙から土地を買い受けながら所有権移転登記手続をしないでいた間に,乙が丙にその土地を売り丙に移転登記手続をすると,甲は丙に対し所有権を取得したことが対抗できません。丙が抵当権の設定登記を受けた場合も同じです。この場合は,甲は抵当権の負担付きの所有権者ということになります。
乙 → 甲 売買契約による所有権の移転・・しかし登記はしていない。
乙 → 丙 売買契約による所有権の移転登記や抵当権の設定登記
甲は丙に負ける。丙が所有権や抵当権を取得する。
これを「対抗関係」といいますが,対抗関係は権利取得者間の優先劣後の関係をいいますので,権利移転の理由は問われません。甲の取得理由が時効の場合も同様です。
乙 → 甲 時効取得による所有権の移転・・しかし登記はしていない。
乙 → 丙 売買契約による所有権の移転登記や抵当権の設定登記
甲は丙に負ける。
という関係になるのです。
2,判例(所有権対所有権のその後の関係)
乙 → 甲 時効取得による所有権の移転・・しかし登記はしていない。
乙 → 丙 売買契約による所有権の移転登記
甲は,引き続き所有の意思をもって占有を続ける → 時効取得期間を経過すると所有権を取得する。
最高裁判所昭和36年7月20日判決は,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されると判示しましたので,対抗関係に負けた者でも,その時点から,時効期間を経過するまで,不動産を占有している場合は,今度は,時効によって権利を取得することになります。
これは,要するに,最初の登記による対抗関係では,登記がないため,権利の取得を対抗できない場合でも,それ以後において,時効取得に必要な期間,所有の意思をもって占有を続けておれば,時効取得し,この時効取得は,もはや第三者とはいえない立場の丙に対する関係になるので,登記なくして丙に対抗できるということになるのです。
この判例は,所有権対所有権の関係におけるものですが,最近,所有権と抵当権との関係でも,時効取得を認めた判例が現れました。
3,判例(所有権対抵当権)
乙 → 甲 売買契約による所有権の移転・・しかし登記はしていない。
乙 → 丙 抵当権の設定登記・・・この瞬間に,甲の所有権は抵当権付きの所有権になる。
甲は,引き続き,所有の意思をもって土地の占有を続ける → 10年経過した時に,抵当権は消滅する。
最高裁判所平成24年3月16日判決は,甲が乙から土地を買い受けながら所有権移転登記手続をしないでいた間に,乙が丙に抵当権の設定登記をしても,甲が丙の抵当権の設定登記の日を起算日として,所有の意思をもって占有(自主占有)を続け,時効取得期間を経過した場合(通常,善意無過失であろうから10年間)は,抵当権は消滅する,と判示しました。