建築請負契約における瑕疵認定の基準を定めた裁判例
1,事件の内容
①甲は,賃貸用マンションを2棟建築するが,建築基準法に適合する建物では貸室数が少なくなり賃貸業の採算がとれなくなるので,いったんは建築基準法に適合する建物を建築して検査済証の交付を受けた後に,違法な建物にすることを計画して,
➁乙と通謀の上で,乙との間にそのような違法建物を建築する請負契約を結んだ。
③乙は,建築基準法に適合した工事の部分は完了した後,
④乙が,違法建築を始めた後で,区役所に発覚してしまった。
⑤そこで,乙は,区役所の指示を受けて是正計画書に従い,是正工事を含む追加変更工事を施工した。
⑥そこで,乙は甲に対し,建築代金請求訴訟を起こした。
2,原審判決
原審の東京高裁判決は,甲と乙との間の請負契約は,違法建物の建築を目的とするものであるので,公序良俗に反し無効である。よって,乙から甲に対する工事代金の請求を棄却する。
3,最高裁判所平成23年12月16日判決は
甲と乙の契約のうち,違法建物を建築する契約は,公序良俗に反し無効である。しかしながら,その是正のための追加変更契約は公序良俗に反していないので,有効である。したがって,有効な工事代金は,甲に支払う義務がある。と判示しました。すなわち,同判決は,「乙は,本訴請求に当たり,本件追加変更工事の施工の経緯,同工事の内容,本件本工事の代金と本件追加変更工事の代金との区分等を明確にしておらず,原判決中,本件本工事の代金の請求に関する部分と本件追加変更工事の代金の請求に関する部分とを区別することができないから,結局,乙の敗訴部分は全て破棄を免れない。そして,本件追加変更工事の具体的内容,金額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」と判示したのです。
4,破棄の理由
違法建築を目的とする請負契約は公序良俗に反するので無効です(民法90条)したがって,乙は,その部分の工事代金の残額の請求は認められません。これは当然のことです。しかしながら,その是正のための変更契約まで無効とするのは酷であり,違法状態を適法状態に戻す契約まで無効とする理由はないということです。
事実を細かく見,違法な部分と合法な部分を見分ける視点をもてという最高裁の判決です。