相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
解約されていない限り,銀行に対する被相続人の預金口座の取引経過の開示請求はできる
最高裁判所第一小法廷平成平成21年1月22日判決は,
銀行が、預金者の相続人の1人からなされた、被相続人の預金口座の取引経過の開示請求に対し、他の共同相続人全員の同意がないとしてこれに応じなかったケースで、
①預金契約は,・・・消費寄託の性質を有するもの・・・金融機関の処理すべき事務には,預金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,利息の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれ・・・受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負うが(民法645条,656条),・・・委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるため・・・預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は,・・・預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠であるということができる。したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。
② 預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
③ 共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張するが,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はないというべきである。
と判示し、銀行の預金者の相続人に対する,預金口座の取引経過の開示請求権を認めました。
この限りにおいて、使途不明金の調査方法としての、銀行に対する取引経過の開示請求権は有効といえますが、預金契約が、被相続人の生きている間に解約された場合は、難しい問題があります。これは明日のコラムで紹介します。