遺言執行者④ 相続財産目録調整義務続き➁
1,「相続させる」遺言の原則的解釈
「私は,預貯金の全部を妻に相続させる。」と書かれた遺言は,最高裁平成3年4月19日判決により,「遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り」,遺産の分割の方法を定めた遺言であると解されますので,当該預貯金は,遺言者の死亡と同時に,妻の権利になっています。
その名義変更手続や払戻請求は,妻において直接することができます。
遺言執行者が,その名義の変更手続や払戻請求をするのは,前者については最高裁判所平成7年1月24日判決により,後者については,最高裁判所平成10年2月27日判決により,「遺言書に遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り」、難しいものと思われます。
(もっとも,次回のコラムで紹介する東京地方裁判所判決がありますので,遺言執行者でもできる可能性はあります。)
2,遺言書に特段の事情を書く場合
しかしながら,遺言書の内容は,ときに疑義を生ずる場合もあるほど,趣旨が明確なものばかりではありません。また,預金を預け入れている金融機関の預金担当者が,必ずしも,遺言制度に精通しているとは限りません。
受遺相続人が,銀行に対し名義の変更や払戻の請求をしても,簡単に応じてもらえない場合も多々あります。
そういう場合は,遺言執行者,特に弁護士である遺言執行者が,預金名義の被相続人から受遺相続人への変更手続や預金払戻請求ができると,財産の承継関係が円滑に進むでしょう。
そういう場合に備えて,遺言書を作成するとき,「1,私は,預貯金の全部を妻に相続させる。」という遺言条項の後で,「2,遺言執行者は,預貯金の名義書換をすること及び必要に応じて預貯金の払戻請求をすることができる。」という遺言条項を付け加えておくとよいでしょう。この場合の追加した第2項が,遺言執行者を関与をさせる「特段の事情」になります。
なお,この場合の「預貯金の全部」は,遺言執行者が管理するものになりますので,民法1011条及び民法1014条により相続財産目録を作成して,全相続人にそれを交付する義務があるこというまでもありません。