必要は法なき所に法を生む (判例の意義)
与三郎
「そりゃあな。一分もらって,有り難うございますと,礼を言って,けえるところもありゃあ,百両,百貫もらっても,けえられねえ場所もある。ええ,ご新造さんへ。おかみさんへ。お富さんへ。いやさ,お富~!久しぶりだなあ~。」
お富
「そういうお前は・・・」
与三郎
「与三郎だあ。」
お富
「え!」
与三郎
「しがねえ恋の情けが仇。親に貰った財産を,惚れた弱みで見栄を張り,お主のために使ったわ。使い果たして二分残る。お主のためだあ。お主のな。江戸の親には勘当され,よんどころなく岡山の,伯父貴のもとで働くも,ちっとも楽になりゃしない。思い出したはこの念書。墨痕淋漓と書いている。三千両,いつでもお返ししますとな。お主が書いた約束だ。お主と儂との契約だあ。おぬしは儂に義務がある。耳を揃えて,三千両。それがお主の支払義務だあ。俺の権利だあ~。」
お富
「そうでござんしたか。しかし,お前に渡したその念書。目を皿にして,よく御覧。私の書いた約束は,時の経過で消えてるよ。消えるインクで書いたのさ。せっかくだけど,払えない。それが消滅時効というもんだ。」
(注:与三郎の台詞の一部に,著作権の切れたものを使っています。)
人に対する権利は,行使しないでいると,時の経過で消滅する。これを消滅時効という。金銭債権は民事で10年で,商取引によるものは5年だ。知っておく必要のある知識だが,短期で消滅するものも多い。クラブのつけは1年で消える。しかし,紳士は,消滅時効の援用だあってな,男を下げることは言わね~だろう。カミさんに叱られりゃ,言うかもしれないが・・・