必要は法なき所に法を生む (判例の意義)
嫌で嫌でたまらなかったあの女房と,やっと念願の離婚ができた。財産分与に,あの土地をやっても惜しくはないわい。さあ,やるぞ。と言って与えた土地の財産分与。
財産の移動の一つだが,財動く時,税生ず,を知らずにいるととんだことになる。
翌年,税務署から,多額の譲渡所得課税がなされるからだ。
財産分与の場合は,財産を譲渡した側に税金がかかるのだ。財産を与えた側に税が課されるというのでは,与えた側は,納得できね~。これじゃあ,泣きっ面に蜂だ~てなことになる。
しかし,税法はなかなか難しい。判例によれば,理屈はあるのだ。最高裁昭和50年5月27日判決いわく。財産分与をすれば、財産を譲渡した者には,財産分与債務が消滅するという利益が生ずる。その利益は,時価で財産を売却したときに得られる利益と同じだ。だから,その利益(譲渡所得)に課税するというのだ。まさに理屈だ。しかし,理屈だ。
要は,財が動いた。さあ,税金をいただくぞ。税を納めてくれるのは,譲渡者か譲受者のいずれかだ。ここでは,譲渡者から頂くのが理屈に適うわい。となった結果,税金は,譲渡者にかかるのだ。かくて,財産を分与した側は,財産は取られたわ,税金はかかってくるわで,泣きっ面に蜂と相成るのである。
しかしながら,泣きっ面の蜂様も,救済されることがある。それは,そんな税法,ち~とも知らなかった場合で,別れる女房殿に,「お前なあ。別れるにあたってはのう。あの土地を財産分与するがなあ。そうなるとお前に税金がかかるのう。気の毒じゃが,それはお前が払えよ~」ってなことを話しておったときだ。その2つの要件が満たされたときは,これまた,判例(最高裁判所平成元年9月14日判決)で,「そうか,亭主殿には,自分に税金がかかるということを知らなかったのか。知らなかったので,財産分与をしたのか(錯誤があったこと)。そして,その知らなかったために財産分与をするという動機は女房殿に言っておったのじゃな(動機の錯誤の相手方への表示)。そうだったとすれば,そりゃあ,民法95条によって財産分与は無効じゃが。だったら,譲渡所得もありゃせんわい。税金は課さないよ。」ということになるのだ。裁判所も,なかなかに,味なことをするものだ。
注意すべきことがある。弁護士や税理士など,その道の専門家の場合は,このような錯誤があっても,救済されないということだ。民法95条も,重大な過失がある場合は,錯誤の主張はできないと定めているからだ。だから,弁護士は,税法も勉強しなければ安心して女房殿と離婚もできない。とは言えないか?言えないだろうなあ。
参照
民法95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。