不動産 公図の歴史
Q 当社は,賃貸用の商業ビルを所有管理している会社ですが,このたび当社の債権者から,このビルのテナントに対する共益費込みの家賃が全額差し押さえられました。家賃が入らなくなるのはやむを得ないと思いますが,共益費込みの家賃ですので,共益費分だけは,テナントから支払ってもらいたいと思いますが,この願いは通らないものでしょうか?
A 東京地方裁判所平成16年7月22日判決が参考になります。
この事件は,共益費込みの家賃月額25万円が差し押さえられた後に,賃貸人から賃借人に対し,賃料を20万円に減額する代わりに共益費を4万円支払うよう申し入れがあり,賃借人は,毎月の支払額が1万円減額されるので,その申し入れを受けて,賃料月額20万円,共益費月額4万円とする賃料改定合意を結び,以後,賃借人は,差押債権者に,月額賃料20万円しか支払わなくなったという事件の判決です。
この事件では,この賃料改定合意は執行免脱目的の合意として公序良俗に違反し無効か否かが争いになったのですが,判決は,
①共益費は、建物全体の維持管理のための経費であって全建物賃借人にとって有益なものであり、差押により共益費が建物賃貸人に入金されなくなると最終的には建物の維持管理に支障を生じ、結局のところ建物賃貸借契約の継続自体を困難にすることにつながり、賃料を差押えた債権者にとっても不利益をもたらすことになる。
➁とすると、賃貸人が共益費を確実に徴収するために何らかの方策をとることも全く許されないわけではないといわざるをえず、従前は共益費込みの賃料額を定めていたため共益費まで含めた賃料全額が差し押さえられて共益費が全く入金されない事態を招いていたのを防止するため、賃料とは別個に共益費を定めることにより差押の効力が共益費には及ばないようにすることも一律に不当であるとはいえない。
③ただ、賃貸人が賃借人との間で賃料とは別個に共益費の額を合意して従前の賃料額を減額した場合には、共益費に割り当てられた金額が、賃料額や実際に建物維持管理に要する金額等と比較して不相当に高額である場合等差押債権者を不当に害するおそれが存在する場合には、かかる合意は主に強制執行免脱目的でなされたものとして公序良俗に反するというべきである。
④ しかし、本件では、賃借人の同意を得るために賃料と共益費の合計額が従前の賃料額よりも減額された事実を考慮しても、減額変更後の賃料額等に照らして差押債権者を不当に害するおそれがあるとまでは認めることができず、他に差押債権者を不当に害するおそれを認めるに足りる証拠は存在しないから、本件合意が主に強制執行免脱目的でなされたものであるとまでは認定することはできない。
⑤したがって、本件合意は、公序良俗に反するとはいえず無効とはいえない。
と判示しました。
ですから,貴社の場合,テナントとよく話し合って,現在の共益費込み賃料を,共益費と賃料に分ける合意をすると,共益費は直接テナントから支払ってもらえるようになると思います。
なお,その場合の共益費の定め方については,明日のコラムで説明します。