コラム
不動産 敷金の分割預け入れ契約の有効性
2014年10月9日 公開 / 2017年9月8日更新
Q
私は,貸家を所有している者です。今般借家の申し込みをしてきた人から,お金の都合がつかないので,敷金を一度に預けることはできない,敷金の分割預け入れをさせてほしいと言われました。
敷金の分割預け入れ契約は,法律上有効なのですか?
A
1,敷金契約は,従たる契約であり,かつ,要物契約であること
敷金とは,「不動産,特に家屋の賃貸借において,賃借人が賃料その他の債務を担保するためあらかじめ賃貸人に交付する金銭」(有斐閣法律用語辞典第4版)などと定義されています。この定義から明らかなように,敷金契約は,賃貸借契約という元になる契約が前提になって成立する“従たる契約”になります。
また,敷金は民法619条2項により要物契約と解釈されています。要物契約とは契約の成立に物の引渡を必要とする契約のことです。したがって,敷金契約の成立に金員の交付が必要になります。
2,手付契約も,従たる契約であり,要物契約であるので,手付解除は,未払いの手付金には及ばないこと
売買契約における手付契約も,賃貸借契約における敷金契約同様,従たる契約であり,要物契約です(民法557条1項)。ですから,手付を放棄して売買契約を解除する場合は,すでに交付した手付のみを放棄すれば足り,未納付の手付金を支払う義務はありません(大阪高裁昭和58.11.30判決)。
3,消費貸借契約も要物契約であるが,諾成的消費貸借契約は有効
実は,消費貸借契約(金銭の借入契約など)も要物契約ですが,要物性のない消費貸借契約の予約が認められていること(民法589条),要物契約は「ローマ法以来の沿革以外に合理的根拠がない」とされていること及び契約自由の原則かたいって,金銭の引渡しを要しない諾成的消費貸借契約は有効とされています。
4,敷金の分割預入契約(諾成的敷金契約)の有効性
敷金の分割払いを認めることで消費者側に不利になることはなく,インターネットで検索してみると敷金の分割払いを認める社会的な要請は強く,それを認める実務も散見されるようになっていることから,敷金の分割預入契約(諾成的敷金契約)は有効であると言いたいところですが,敷金の分割払いを正面から認めた裁判例は見当たりません。
したがって,敷金を後日支払うというだけの約束は無効,したがって,賃貸借契約時に支払わなかった敷金はその後支払義務はない,とされるリスクが全くないとは言い切れません。
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