賃借人が賃借建物内で死亡していたとき
Q
①(ローン特約付き不動産売買契約の締結)
私はA住宅会社との間に,住宅ローンが実行されないときは売買契約を解除できるという特約(ローン特約)付きで,建売住宅の売買契約を結び,手付金を支払いました。
➁(別債務の返済を条件に融資するとの回答)
そして,すぐ取引銀行であるB銀行に出向き,融資の申込みをしたところ,B銀行は,私が別に借りている自動車ローンの残債務を完済すれば融資に応ずるといってくれました。
③(売買契約合意解約書の締結と手付金放棄の合意)
しかし,私は,考えるところがあり,この売買契約を解除したいと思い,その旨をA住宅会社に伝えたところ,A住宅会社は,私に,手付金は違約金として没収すると言いましたので,私は,やむなくそれを受け入れる「売買契約合意解約書」を取り交わしました。
④(不満)
その後,私は,手付金が返されない結果になったことが不満で,友人に相談したところ,友人は,➁の条件付融資は,融資が実行されることにはならないのだから,私は手付金を放棄する必要はなかったのではないと教えてくれました。
私は,A住宅会社に50万円の返還を請求することができるでしょうか?
A
事実関係が詳細には知り得ないので,明確な結論はだせませんが,裁判例を紹介しますので,結論はあなたご自身でお出しください。あなたの言い分が通る可能性は極めて小さいと思います。
1,ローン特約の趣旨
東京地方裁判所平成9年9月18日 判決は,
①のローン特約の趣旨を,買主が,融資を受けるべく真摯な努力を尽くしたのにもかかわらず,資金調達できなかった場合に、買主保護のために,売買契約解除を認めるというものであると判示しています。
ですから,あなたの場合,「融資を受けるべく真摯な努力を尽くした」かどうかが鍵になるでしょう。
この裁判例によれば,買主が,融資を受けたいという強い意欲をもって,銀行と交渉していることが要件の1つになっています。あなたの場合,B銀行からは,自動車ローンを完済したら,住宅融資をするといってくれたようですので,あなたは,B銀行との関係では,自動車ローンを完済するべく真摯な努力を尽くしたのかどうか?あるいは,それをしないでも融資を受けれるような努力をしたのかどうか?が問われます。また,B銀行が融資に応じてくれるのなら,別の金融機関からの融資も期待できることになりますが,あなたは,別の金融機関から融資を受けるべく真摯な努力をしたのか?も問われます。
東京地方裁判所平成16年7月29日判決は,買主が銀行への融資申込みに意欲を示さなかったことを理由に,買主はローン特約の保護に値せず,手付金を没収されてもやむを得ない,と判示しています。
ですから,あなたが,B銀行その他の金融機関から,融資を受けるべく努力をされ,裁判所の目から見て,あなたには経済的条件その他の点で,客観的に融資が受けられないと判断するほどの状況を証明してはじめて融資不成就解除が認められるというべきでしょう。条件付き融資は融資ではないという理由だけで,解除できるというものではありません。ましてや,「考えるところがあって解除する」などは,論外です。
2,売買契約合意解約書
あなたは,売買契約合意解約書を取り交わし,手付金を放棄していますが,不満であっても,いったん売買契約合意解約書を取り交わした以上は,それに拘束されます。一般論として,合意した内容が,錯誤によるものであるとか,A社の担当者の詐偽又は強迫によるとかの具体的詳細な主張をしても,それらが認められる可能性は小さいものですが,③に書かれた理由では,その主張は無理でしょう。
3,結論
結論は,あなたご自身でお考えください。訴訟をお起こして手付金の返還を請求しても,認められる可能性は極めて小さいと思います。