契約書知識 15 契約書の記載事項(2)
Q 今般、当社(メーカー)の取引先である乙社(卸商)が、民事再生手続開始の申立をしました。当社と乙との間に取り交わした継続的商品売買契約書の第14条と第15条は次のようになっています。
そこで、当社は、これらの規定に基づき、まだ弁済期が到来していない売掛金を含めて債権全額を乙社に請求すると同時に、乙社との売買契約を解除しようと思いますが、可能ですか?
(解除条項)
第14条
甲及び乙は、互いに、相手方に次に定める事由の1つでも生じたときは、何らの通知催告を要せず、直ちに本契約を解除することができるものとする。
①支払を停止したとき
②手形交換所の取引停止処分を受けたとき
③差押、仮差押、仮処分、競売、租税滞納処分の申立を受けたとき
④破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始若しくは特別清算手続開始の申立を受け、又は自ら申立をしたとき
⑤その他財産状態が悪化し、又は、そのおそれがあると認められる相当の理由があるとき
2 前項の解除の意思表示は、相手方の住所地または本店所在地宛に書面にてこれを行うものとする。
3 当該書面による通知が、相手方又はその代表者の所在不明等により、送達されなかった場合は、その発送の日から2週間を経過した日に、解除の意思表示が到達したとみなすものとする。
(期限の利益の喪失)
第15条
甲又は乙は、前条1項各号の1つに該当する事由が発生したときは、甲乙間の取引により生じた相手方に対する一切の債務について、当然に期限の利益を喪失したものとする。
A
1,解除事由は無効
判例は古くから、買主に会社更生手続の申立の原因になる事由が生じたことを売買契約の解除事由とする旨の特約は、会社の維持更生を図ろうとする会社更生手続きの趣旨・目的を害するものであるから、無効であると判示していました(最判昭57.3.30)が、平成20年12月16日には、民事再生手続開始の申立についても、解除事由とすることは無効になると判示しました。
2,期限の利益喪失条項は有効
前記最判平20.12.16の田原睦夫裁判官の補足意見や、東京地判平14.3.14は、倒産手続開始の申立を期限の利益喪失約款とすることは有効だと判示しています。
3,結論
貴社の場合、乙社が、民事再生手続開始の申立をしたことにより、売買契約を解除しても無効になります。
しかし、乙は、民事再生手続開始の申立をしたことにより、期限の利益を喪失していますので(これは前述のように有効)、乙が貴社に対する債務の全額を支払わなかったときは、貴社は、解除事由の1号「債務の支払を停止したとき」を理由に、売買契約を解除できることになります。
しかしながら、民事再生手続の開始を申し立てる会社は、ほとんどの場合、裁判所から、債務弁済禁止の保全処分を受けていますので、乙社も、債務弁済禁止の保全処分を受けていれば、貴社は、乙社に裁判所からの保全処分命令に違反して債務の弁済をせよという権利はなく、したがって、債務弁済停止を理由に売買契約の解除はできません。
要するに、取引の相手方が、会社更生法や民事再生法の適用を申請した場合は、解除条項も期限の利益条項も無意味になるということです。
契約書に関する知識として覚えておくと便利です。