契約書 賃貸借契約で「公租公課は貸主が負担する。」との約定の意味
【失敗実例③ 収益という言葉の誤解】
これも弁護士の失敗例を紹介するものですが、今度の場合は、契約書ではなく、示談書の例です。
なお、示談書とは、何らかの法的紛争に遭遇した当事者間で、その解決のために権利・義務の内容を定めて取り交わす書面のことです。
A弁護士は、依頼人(個人事業者)から、債権者に対し毎月支払っている債務額に加えて、収益の増加分の2割を支払う合意が出来たので、示談書を作成してほしいと頼まれ、
①「乙(個人事業者)は、甲(債権者)に対し、収益が増加したときは、増加額の2割を追加して支払う。」と書いた示談書(案)を示しました。
しかしながら、この依頼人は、「収益」という言葉を、「事業所得」という言葉の意味に誤解していたので、弁護士が書くべきであった示談書の内容は、
②「乙(個人事業者)は、甲(債権者)に対し、事業所得が増加したときは、その増加額の2割を追加して支払う。」というものでなければならないものでした。
弁護士は、その依頼人の意図を正すことをしないで、言われるままの言葉で示談書(案)を書いたのですが、これは弁護士としては、大きなミスです。
ところで、「収益」という言葉は、会計用語で売上高のことですが、「事業所得」は、所得税法27条2項により、総収入金額(会計学でいう「収益」)から必要経費を控除した後の金額になりますので、この弁護士が書いた契約書(案)は、乙は甲に対し、必要経費を控除する前の総収入額の増加額の2割を甲に追加で支払うという内容になっていたのです。
この弁護士の書いた示談書(案)は、別の弁護士の指摘により、「収益」という言葉が「事業所得」という言葉に書き換えられて正されたので、事なきを得ましたが、もし、そのまま「収益」という言葉を使って示談書を取り交わしていたら、依頼人は大きな損害を被ったかもしれません。
言葉は、意味を正しく理解して、使わなければならない、ということです。