契約書知識 16 契約書の表記は公用文表記法による
昨日のコラムでは、契約書には、意味が一義的明確性(意味が明確で他の意味には解される可能性がないという意味)をもった言葉、すなわち法令用語を書くべきだと解説しましたが、同じ法令用語であっても、民事訴訟法や刑事訴訟法などの手続法上の法令用語は、権利や義務を発生させる言葉ではないので、使うべきではありません。
【失敗実例② 民事訴訟法上の法令用語が使われた例】
これも弁護士が書いた文章ですが、
①「乙は甲に対し連帯保証関係にあることを認諾する。」という言葉がありました。
この認諾という言葉は、民事訴訟法上特別の意味を持たせて使われる法令用語で、契約書に書かれる言葉ではありません。この場合は、
②「乙は甲に対し、丙(主債務者)の甲に対する・・・の債務について、連帯保証債務があることを認める。」と書くべきでした。
【解説】
弁護士が書いた「認諾」という言葉からは、何の権利・義務も発生しません。意味も不明です。弁護士が書いた言葉「認諾」の「認」は認めるという意味ですので、この弁護士の言いたいことは、「認める」ということかな、と推測できるだけですが、それならば、端的に、「認める」と書くだけで十分です。
民法147条は、時効中断事由を定めた規定ですが、その時効中断事由の3号に「承認」があります。通常、示談書では、「債務のあることを承認する。」という硬い表現ではなく「債務のあることを認める。」という表現をしていますが、意味は同じです。ですから、この場合、弁護士は、実体法上の言葉である債務の承認という用語を意識して書くべきだったのです。民事訴訟法上の「認諾」という業言は間違いなのです。
生兵法は怪我のもと、という言葉がありますが、弁護士も若いうちは知っている言葉をやたら使いたがる時期があるのかもしれません。しかし、法令用語をもてあそぶのは危険です。
“弁護士の悪文書き”
という言葉があります。
弁護士は、決して、美文は書けません。言葉を、美しく書く、という発想よりは、言葉が生み出す法律効果を正しく伝えることを主眼に書くからです。
これも、若い弁護士が訴状に書いた文章ですが、同じ建築物の瑕疵(「かし」と読みます。)の部分を指して書くのに、「不具合」「欠陥」「ミス」などという言葉を書き連ねているのです。
「瑕疵」という言葉は、判例により明確な意味づけがなされ、そこから瑕疵修補請求権等の権利が生ずる言葉なのですが、「不具合」「欠陥」「ミス」などという言葉は、一義的明確性をもった言葉ではなく、また、そこから権利が生ずる言葉でもないので、使うべきではないのですが、若い弁護士は、同じ瑕疵という無味乾燥な言葉の羅列では、文章が美しくないと考えたものか、「瑕疵」ということばに代えて、ときに「不具合」、ときに「欠陥」、ときに「ミス」などという言葉を使って、文章を飾ろうとしたものと思われます。
しかし、訴状や契約書に、美文を持ち込んでは失敗します。
契約書は、法令用語という悪文で書くべきなのです。