契約書知識 15 契約書の記載事項(2)
契約とは、取引をする当事者間で、権利・義務を定める約束事です。
不動産の売買契約について言えば、売主は買主に不動産の所有権を移転する義務を負い、買主は売主に代金を支払う義務を負うことを約束することです。
契約書とは、①この約束の内容を明確にして紛争を予防し、あわせて、②後日紛争が生じたときに裁判上の証拠にするため、契約当事者間で取り交わす書面です。
“法は油断のない者を助け、眠れる者は助けない。”という法諺(ほうげん=法に関する諺)がありますが、契約書は、油断のない目をもって、書かねばなりません。
【本コラムのテーマ】
契約書には、権利や義務が直接発生したり消滅する法令用語を書かなければなりません。
【失敗実例1―法令用語が使われなかった例】
ある弁護士が書いた契約書の文章に、
①「乙(連帯保証人)が甲(債権者)に金〇〇万円を支払ったときは、甲は、乙が連帯保証関係から脱退することを認める。」
というものがありました。
これは、正しくは、
②「乙(連帯保証人)が甲(債権者)に金〇〇円を支払ったときは、甲は、その余の乙の連帯保証債務を免除する。」と書くべきだったのですが、弁護士は、上記①の文章は、②の意味の言葉だ、慣習として使われている言い回しだと嘯いたものでした。
【解説】
①の文章中の「免除」という法令用語は、民法519条の「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。」という規定により、債権者の持つ債権の消滅を意味しますので、「その余の連帯保証債務を免除する」と約束されると、文字どおりその余の連帯保証債務は消滅しますが、②の「連帯保証関係からの脱退」という言葉は法令用語ではなく、意味不明の言葉になっています。強いて意味を詮索すると、債権者はその後発生する主債務者の債務について連帯保証人の責任は問わないという意味かな、と思うだけですが、契約書には、このような解釈に疑義が生ずる言葉を使うべきではありません。
言葉は、一義的明確性のある言葉、つまり法令用語でなければならないのです。