コラム
相続相談 自社株式の価格⑥ 併用方式と“まとめ”
2013年10月17日
これは、公刊された書籍ではなく、私が代理人になった岡山家庭裁判所の遺産分割調停事件での、公認会計士の鑑定意見書の内容ですが、これには、
「完全な継続企業(永久に企業規模が縮小しない企業)であれば、会社の価値は収益還元価値に重点を置くべきであり、完全な清算状態であれば純資産価値に重点を置くべきであるが、中小企業の場合は、経営者個人の属人的能力の如何によって、経営成績が大きな影響を受けるので、現在の状況が継続企業であると認められる場合であっても、必ずしも永続するとは限らない。会社の株式は収益還元価格と時価純資産価格の両者に0.5ずつのウエイトを置いて評価するべきだ」と書かれている部分があります。
非公開会社・中小企業のオーナーが残した自社株の価格は、このような収益還元法と純資産法の併用が多いように思われます。
しかしながら、収益還元法といっても一様ではなく、福岡高裁平成21年5月15日決定事件の鑑定書3通は、同じDCF法によりながら、1通は、1株当たりの価格が161万7590円、2通目の同じ鑑定人による修正資料に基づく再鑑定では247万3000円になっている一方、裁判所が嘱託した鑑定士の鑑定書では22万6485円になるなど、数値が極端に違っています。
また、純資産法といっても一様ではなく、大阪高裁58.2.7決定は、会社の財産を時価で評価するといっても、不動産賃貸を業としている会社の場合は、その中の不動産については収益還元法を用いて不動産の価格を算出する方法をとる一方、冒頭に紹介しました岡山家庭裁判所の遺産分割調停事件の鑑定意見書は、簿価純資産額に、この会社がLPガスの小売業をしている会社であったことから、取引先戸数に一定の単価を掛けて算出したLPガス供給権額を加算し(税額は継続事業であることを理由に控除しない)それを発行済株式総数で除して株価を決定する見解を示している等、実に多種多様な考えが出されています。
また、併用方式も収益還元価格対純資産価格を何対何で加重平均するのかの基準があるわけではありません。
福岡高裁平成21年5月15日決定は、(DCF法価格×0.3+純資産価格×0.7)÷2で株価を算出しており、前記岡山家裁の鑑定意見書は(収益還元価格×0.5+純資産価格×0.5)÷2で株価を算出していますが、その併用する方式の各割合をどう決めるかについて明確な根拠が示されているわけではありません。
さらには、純資産方式についていえば、東京高裁平成20.4.4決定のように、純資産価格だと安くなることも理由に、併用方式を含め純資産価格は採用しないと明言する裁判例もあれば、逆に、東京地裁平成10.5.29判決のように、株式の理論的・客観的な価値は、純資産価格であると明言する裁判例もあり、また、大阪高裁58.2.7決定のように、時価純資産方式が合理的であるといいながら、それをすると純資産価格が高くなるので、会社が所有する不動産は収益還元法によるべきだとする裁判例があるなど、純資産方式をよしとするもの、よくないとするもの、その折衷的な算式を考えるもの等、実際の裁判例に見られる株価決定方式は、実に多種多様です。
これらの裁判例を概観するに、裁判所が決定する株価は、鑑定人又は裁判所がどこに目を向けるかによって大きく異なることがわかります。
これを当事者の目から見ると、当事者が、鑑定人又は裁判所の目をどこに向けさせるかによって株価が大きく異なる、ということができると思われます。
“黙っていては損をする”“鑑定人又は裁判所に自己に有利な株価を決定してもらえるよう、自己に有利な情報を提供する”ことが、資産とくにオーナー社長が残した自社株の評価の問題ではないかと思われます。
これは、すべての紛争について言えるのですが、弁護士の頑張り方1つで、依頼人に、有利にも、不利にも、してしまうということだろうと思われます。
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