相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
大阪高裁58.2.7決定は、遺産分割事件で、被相続人が残した自社株の価格を決定した事件です。会社の株価については、時価純資産方式が合理的であるとして採用していますが、会社の有する不動産は、時価評価をすると収益還元法に比べ高くなること理由に、また、会社が不動産賃貸を目的とした会社であることを理由に、収益還元法によるべきであるとしています。空家になっている分は、現実には収益を生まない財産になっていますが、これは修理の上賃貸するものとして評価をするべきであると判示しています。
なお、この事件では、裁判所が嘱託した鑑定士の鑑定を採用せず、当事者から提出された鑑定意見書(私的鑑定書)を採用されているのが関心を引きます。
東京地裁平成10.5.29判決は、遺産分割のときの株価の決定でも、会社法による株価の決定でもなく、評価目的の全く異なる相続税更正処分取消請求事件ですが、株式の理論的・客観的な価値は、会社の総資産の価額を発行済株式総数で除したものが正しく、資産の大部分が土地である会社の株式の評価は、配当性や収益性ではなく、会社の純資産に着目した評価通達に従い純資産価額方式によるべきである、と判示しています。この理によれば、昨日のコラムに書いた、不動産の時価を収益還元法で算出することは許されないことになるのでしょうか?それとも、課税処分であるために、基本通達によるべきであると断じたものでしょうか?判旨は、課税処分だから、とは書いてはいません。一般論として、「株式の理論的・客観的な価値は、会社の総資産の価額を発行済株式総数で除したものが正しい」と書いていますので、この裁判所の見解は、遺産分割の際の株価決定でも、同じ見解になるのか、興味を引かれる事件です。