民法雑学 最高裁の破棄判決例と囲繞地通行権
1,時効の援用
時効という制度があります。
時の経過が、権利の取得・消滅という法律効果を生じさせる制度です。
債権について、一定の期間が経過すると、時効で消滅すること、また、所有の意思をもって平穏・公然と不動産を占有し、20年が経過するとその不動産を時効取得することも、一般によく知られていることですが、時効による恩恵は、時効によって利益を受ける者が、時効を援用するという意思表示をしないと効果は生じません。
2,消滅時効に関する時効援用権の放棄・喪失ー時効完成後の弁済
⑴ 原則
最高裁昭和41年4月20日判決は、「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし,相当であるからである。」と判示しましたので、消滅時効に関しては、時効完成後の弁済、弁済猶予の申出など債務の承認と評価されるものも含めて債務を承認した場合は、もはや、消滅時効の援用は許されないことになります。
⑵ 例外
しかしながら、債務者が時効完成後に一部弁済をした後さらに16年以上経って残金を請求された事案で、福岡地裁平成14年9月9日判決は、残金について、債務者の消滅時効の援用を認めました。
3,取得時効に関して
東京地裁昭和45年12月19日判決は、土地を時効取得した者が、時効完成後、隣地との間の境界を定めるため、土地家屋調査士に依頼して土地を実測し、その実測図に基づき、隣地との境界に石杭を埋設し、境界確定合意書に署名押印した場合は、時効完成による土地の所有権取得の利益を放棄したものと認められると判示しました。