抵当権と税金の優劣関係
1時効取得による利益は、一時所得
財産を時効によって取得した場合、その財産の取得という利益は、一時所得に区分されますので、その利益から50万円を控除した残額の1/2が、他の所得と合算され、総合所得の対象になります(所得税法22条2項②34)。
法人の場合は、時効によって得た利益は益金に算入されます(法人税法22条2項)。
2一時所得にかかる税金の納期限
一時所得による利益は、他の所得と合算して、時効取得をした日の翌年の2月16日から3月15日までの間に申告をして納めることになります。
3一時所得が発生する時期
一時所得が発生する時期はいつになるのでしょうか?
つまり、時効取得は時効期間が満了した時に効果を生ずるのか、それとも、時効を援用した時に効果が生ずるのか、という問題です。
例えば、他人名義の不動産を、所有の意思をもって、平穏かつ公然と占有し続け、今から10年前に取得時効期間は満了した。しかし、訴訟を起こして、時効の援用をしたのは、ごく最近のことだという場合、もし一時所得の発生時期が取得時効期間の満了の時とされると、所得税は消滅時効(注:この時効は財産の時効取得の取得時効のことではなく、所得税という債務の消滅時効の時効のことで、納期限から5年間)によって消滅していることになりますが、一時所得の発生時期が時効の援用の時であれば、所得税はまだ消滅時効が完成していないので、申告納付義務がある、ということになります。
つまり、所得時効の時期いかんによって、税金債務が、取得者の知らないところで、消滅時効によって消滅していることもあるのです。
この問題の回答は、判例により、時効利益の援用の時とされています。判例(最高裁昭和61.3.17)は、債権の消滅時効に関する事案ですが、時効によって債権が消滅するのは、時効期間が完了した時ではなく、消滅時効の援用時であると判示しているのです。
ですから、知らないうちに、税金債務が消滅していたということはありません。
4 不動産の時効取得の対価として和解金を支払った場合
不動産の時効取得をしたとして不動産につき所有権移転登記手続の請求訴訟を提起したが、判決ではなく和解で解決する場合というのが結構ありますが、その場合に支払った和解金はどのようなものとして扱われるかといいますと、取得費用と扱われます。
その結果、勝訴判決の確定により不動産を時効取得した場合の一時所得は、
(土地の時価-50万円)× 1/2ですが、和解金を支払った場合の一時所得は、
(土地の時価-和解金-50万円)× 1/2ということになります。
5 弁護士に委任して訴訟を起こした結果、時効取得が認められた場合の弁護士費用
通常、不動産の時効取得が認められるのは、訴訟を起こし勝訴した場合が多いと思われますが、訴訟にかかる費用や弁護士費用は、取得費に該当しません(東京地裁平成4.3.10判決)。