商取引 8 売掛金の回収方法③ 所有権留保
1意味
不安の抗弁とは、継続的な取引をしている場合において、取引の相手方に、倒産や支払い停止の恐れを感じた場合に、それを理由に、先履行になる債務の支払いを停止することをいいます。
例えば、継続的な売買契約を結んで、売主が買主に、商品を販売しているとき、買主が支払い停止をしそうであるというような状況にある場合、売主としては、もし、買主が倒産をすれば、弁済期前の売掛債権はむろんのこと、今後販売する商品の代金も支払ってもらえないことになるので、リスクを最小限に抑えるために、販売を中止するようなことです。
2不安の抗弁を認めた裁判例
⑴ 東京地裁昭和58.3.3判決
買主である乙社がいわば倒産前夜ともいうべき状況に陥入り、その時期以降において売主会社から商品の納品を受けても、その代金を決済することができる見込みはほとんどなかったものと推認することができる等の事情の下では、売主が、商品の納入を停止しても、公平の原則に照らし、違法ではない。
⑵ 東京地裁平成2.12.20判決
買主との継続的な商品供給取引の過程において、取引高が急激に拡大し、累積債務額が与信限度を著しく超過するに至るなど取引事情に著しい変化があって、売主が買主に対しこれに応じた物的担保の供与又は個人保証を求めたにもかかわらず、買主がこれに応じなかったばかりか、かえって、約定どおりの期日に既往の取引の代金決済ができなくなって、支払いの延期を申し入れるなどし、売主において、既に成約した本件個別契約の約旨に従って更に商品を供給したのではその代金の回収を実現できないことを懸念するに足りる合理的な理由があり、かつ、後履行の買主の代金支払いを確保するために担保の供与を求めるなど信用の不安を払拭するための措置をとるべきことを求めたにもかかわらず、買主においてこれに応じなかった場合においては、取引上の信義則と公平の原則に照らして、売主は、その代金の回収の不安が解消すべき事由のない限り、先履行すべき商品の供給を拒絶することができるものと解するのが相当である。
⑶ 東京地裁平成9.8.29判決
施主(請負工事の注文者)から支払条件の変更申し入れに対して請負業者が代金支払の確実性に疑念を抱いて工事を中止したことは,同申入れを請負人が受け入れなければならない義務はなく,これを拒否しても違法ではない。
3 契約書に明確に書いておくこと
不安の抗弁については、法律上の根拠規定はありません。ですから、どのような要件があれば認められるかは、明確ではありません。そこで、契約書上に、その要件を明確にしておくべきです。
例えば、①与信枠を設定してそれが一杯になったとき、その他一定の事由が生じたときは、相手方会社に、財務諸表、資金繰り表などの提出や追加担保の提供を求めることができる。②相手方会社がその提供をしなかったときは、商品の出荷を停止できる。③その場合は売主に債務不履行の責任は生じない。等の特約を、契約書上に書いておくべきです。