遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
代償分割とは、遺産分割方法の1つで、自己の具体的相続分を超えて、遺産を取得する代償に、その超える部分について、現金その他自己の財産を他の相続人に与える方法をいいます。
例えば、相続人が甲乙丙という3人の子がおり、遺産が時価6000万円の不動産のみという場合、子の1人甲が、不動産を取得し、他の2人の相続人乙と丙に、代償金として2000万円ずつ支払ったとしますと、それが代償分割です。
この場合、甲は6000万円の価値のある不動産を取得し、4000万円を支払ったので、差引2000万円の財産の取得、乙と丙は、甲からそれぞれ2000万円ずつ支払ってもらったので、それぞれ2000万円ずつの財産の取得となり、いずれも、同じ価値の財産を取得したことになります。
ところが、遺産分割後、甲が不動産を6000万円で売却したとします。
この場合、不動産の譲渡所得が発生すると、甲に譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税は、不動産の譲渡価格から取得費用や譲渡費用を差し引いた残金に税率が適用されて、算出されますが、重要なことは、その不動産を代償分割で取得したからといって、代償金が取得費になるのではないということです(所得税法基本通達38-7)。
ですから、甲が遺産分割により取得した不動産が、先祖伝来のものであるために取得費が分からないときは、取得費が概算取得費として譲渡価格の5%しか認められないので、甲は、6000万円で売った不動産価格からその5%に相当する300万円の取得費を引いた5700万円の譲渡所得が発生したことになるのです(譲渡費用は生じていないこと、相続税の取得費加算制度の適用を受けていないことが前提)。
その結果、甲は、1140万円の譲渡所得税を納めなければならないことになるのです。
以上を、まとめますと、
1代償分割段階
甲・・・6000万円の不動産-代償金4000万円=2000万円の財産の取得
乙・・・2000万円の現金(代償金)の取得
丙・・・2000万円の現金(代償金)の取得
となり、甲乙丙とも2000万円の財産を取得したと言えますが、
2不動産を売却した後の財産(現金)を比較しますと、
甲・・・6000万円の不動産-4000万円-1140万円の税金=860万円の現金の取得
乙・・・2000万円の現金の取得
丙・・・2000万円の現金の取得
という結果になりますので、この場合、甲は乙や丙に比べ、その半分以下の財産しか取得していない結果になっています。
ですから、遺産分割協議をする際、特に不動産を取得するときは、その後売却を予定しているのかどうか、その場合譲渡所得税はいくらかかることになるのかを考えた上で、決するべきです。