建築 19 重大な過失の例
東京高裁平成14.4.24判決
1事実関係
甲は、乙社の紹介で、土地を購入し、乙社に建物を建築してもらったが、土地の2/3は都市計画法による道路予定地の指定を受けていた。そのため、甲は、将来都市計画道路ができるときは、建物を収去しなければならない状況の中に置かれた。甲は、このような法的規制を知らされず土地を購入し、建物を建築してもらい、そこに居住して数年経って、そのことを知った。
2土地に関する規制と建築業者の責任
ア 敷地が都市計画法による道路予定地の指定を受けていたという制限は、第一次的には土地の売主において買主(本件では甲)に説明する義務があったものであるが、人は、土地に対する制限があることを知っておれば、その上に建物の建築をしない可能性があり、このことは建物の建築請負業者(本件では乙社)も、一般に予測することができるのであるから、建築業者も、敷地に関し公法上の規制があるか否かを把握し、これが存在する場合は土地の買主であり建物の建築主でもある者(本件では甲)にこれを説明した上、建築確認申請をして建築確認を受けるか否かを協議する義務を負うものと解するのが相当である。
イ しかるに、乙社は、建築確認申請事務を第三者設計事務所に任せきりにして上記制限の存在を看過し、甲にこれを知らせることがなかったのであるから、甲に対し、本件建物請負契約上の債務の履行を怠ったというべきである。
3損害
①将来、敷地につき都市計画事業が実施された場合、甲は、敷地と建物を買収又は収用されることになるが、そのときは、時価相当の補償あるいは移転費用の補償がある。②また、甲は、現実には、本件土地売買契約及び本件建物請負契約における所期の目的を達成し本件土地上の本件建物に居住を続けている。③また、本件土地について計画されている都市計画事業がいつ具体化されるのかは不明である。④したがって、甲は、土地代金相当額及び建物建築代金相当額の損害を被っているということはできない。
⑤しかしながら、本件土地に、前記都市計画上の制限がある以上は、本件土地及び建物の価格は、このような制限のない不動産に比して需給関係上のいわゆる市場性減価を被ることが推認され、その程度は少なくとも10%を下らないものと考えられる。⑥仮に乙社が前述のような義務の履行として建築確認申請の段階で甲に本件制限について適切な説明をしていれば、ⅰ 甲が本件土地の売買契約及び本件建物請負契約の解消ないし減額を交渉し、契約を解消した場合には本件土地及び建物とほぼ同等で本件制限のような制限のない土地建物を取得し、ⅱ 契約を解消しないということになれば上記程度の減額を得ていた蓋然性は極めて高いものと認められる。⑦したがって、本件土地の売買代金及び本件建物の請負代金の総額の約10%に当たる○○○万円は乙社の前記説明義務違反と相当因果関係のある損害と認めることができる。
4甲にも過失はあったか?
土地売買契約及び建物建築請負契約上、このような規制について素人である控訴人が、自ら調査せずに、宅建業者でもある土地の売主や、建築業者である乙社の調査や把握に任せていたとしても、そのことをもって控訴人に過失があるということはできない。
5弁護士費用も損害になる
本件の事案の内容、訴訟経過、訴訟活動等本件に現れた諸般の事情を考慮すると、本件のような事案は法律の専門家である弁護士に委任して訴訟を追行しなければ的確な権利の防御はできないと認められるから、弁護士費用○○万円(前記損害賠償額の10%程度)は乙社の債務不履行と相当因果関係のある損害というべきである。