使用者のための労働問題 12 労働審判は便利②
1 通勤時間
雇用契約は、通常、労働者が、使用者が指定した場所に、指定された時刻までに出勤し、指定された場所で労務を提供することが内容になっていますので、通勤は、いわば労働者が指定された場所へ行って義務を履行するまでの準備行為であり、労働時間には入らないのです。
ただし、本来の労働契約の履行の場所である建設現場とは異なる場所に、複数の労働者が集合し、機械、工具の点検をして、それらを車に積み込んで、建設現場に行くような場合は、積み込んだ時点から労働時間になるという裁判例(東京地判平成20.2.22総設事件)があります。
2出張先までの移動時間
通常、出張の際の往復に要する時間は,労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるので,右所要時間は労働時間に算入されず,したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である、とされています(横浜地判川崎支判昭和49.1.26日本工業検査事件)。
ただし、厚労省平成16年8月27日通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(基発第0827001)は、訪問介護労働者の労働の特殊性から、一定範囲の移動時間を労働時間と認めています。
なお、出張は,事業場外で業務に従事するものなので、使用者がその実際の労働時間を確認することはむずかしく、このような場合,労働基準法は,所定労働時間労働したものとみなすと規定しています(第38条の2第1項)。
出張中の休日について
なお、出張日程の途中に休日がある場合や,休日が移動日に当たる場合も、その休日に用務を処理すべきことを明示的にも黙示的にも指示していない場合は,その当日は休日として取り扱われます。また,「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても,旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取扱わなくても差し支えない」とする行政解釈があります(昭和23年3月17日 基発461号,昭和33年2月13日 基発90号)。
3 休憩時間
休憩時間は、労働時間ではありません。ただし、その休憩時間は、労働者が労働から離れることが保障された時間でなければなりません(最判平14.2.28)。ですから、休憩時間に、使用者の指揮命令の下で労働をした時間分については、賃金の請求が認められます。
なお、休憩時間でも、完全に仕事から解放されるというのではなく、突発的な事態が生じた場合は、それに対処しなければならないときもありますが、最判昭和54年11月13日判決(住友化学工業事件)は、長期に渡る以上のような労働時間の事実上の拘束に対し30万円の慰謝料を認めています。
なお、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(労基法34条1項)。
4 自宅での待機時間
いわゆる宅直のことです。勤務先の宿直の場合の仮眠時間は、労働時間とされる場合がありますが、自宅での待機時間は、原則として、労働時間にはなりません(大阪高判平成22.11.16)。
5 早出
通勤ラッシュを避けるため等の理由で早出をする場合は、労働時間にはなりません。
6 事前の許可申請のない残業や休日出勤
ケースバイケースになります。
7 持ち帰ってした仕事
いわゆる持ち帰り残業は、特段の事情がない限り、労働時間にはなりません。
8仮眠時間は労働時間か?
ビル管理の技術者で24時間勤務の者の仮眠時間について、最高裁14.2.28判決は、警報が鳴り次第速やかに対応することが義務付けられている場合は労働時間となる、と判示しています。
仮眠時間も労働時間だとすると、労働契約上の賃金の支払義務があることになりますが、前記最高裁判所平成14年2月28日判決は、24時間勤務のビル管理会社の従業員に泊り勤務手当が支給され、それを受領している場合は、それ以外の賃金は請求できない。しかし、時間外労働手当と深夜労働手当は労働契約上の賃金を基準に支払義務がある、と判示しております。
9手待時間はどうか?
手待時間とは、作業と作業の間の待機時間をいいますが、この時間は、労働時間になります。