建築家の権利① 著作権は,設計図にあるも,一般建築物にはなし
①「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」は著作物と言えるか?
②「ママの胸より チャイルドシート」は、①の著作権の侵害か?
東京地判平7.12.18は、
1著作物である
「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という標語は、3句構成からなる5・7・5調(正確な字数は6字,7字,8字)調を用いて,リズミカルに表現されていること,「ボク安心」という語が冒頭に配置され,幼児の視点から見て安心できるとの印象,雰囲気が表現されていること,「ボク」や「ママ」という語が,対句的に用いられ,家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば,筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。
したがって,原告スローガンは,著作物性を肯定することができる。と判示した。
2 「ママの胸より チャイルドシート」は、「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」の著作権を侵害するか?
原告の①スローガンと被告の②スローガンの各表現を対比する。
両スローガンは,「ママの」「より」「チャイルドシート」の語が共通する。
上記共通点については,両スローガンとも,チャイルドシート着用普及というテーマで制作されたものであるから,「チャイルドシート」という語が用いられることはごく普通であること,また車内で母親が幼児を抱くことに比べてチャイルドシートを着用することが安全であることを伝える趣旨からは,「ママの より」という語が用いられることもごく普通ということができ,原告スローガンの創作性のある点が共通すると解することはできない。
これに対し,原告スローガンは,被告スローガンと対比して,〔1〕「ボク安心」の語句があること,〔2〕前者が「膝」であるのに対し,後者は「胸」であること,〔3〕前者は,6字,7字,8字の合計21字が3句で構成されているのに対し,後者は,7字,8字の合計15字が2句で構成されている点において相違する。そして,〔1〕原告スローガンにおいては「ボク安心」という語句が加わっていることにより,子供の視点から見た安心感や車内のほのぼのとした情景が表現されているという特徴があるのに対し,被告スローガンにおいては,そのような特徴を備えていないこと,〔2〕「ママの膝」と「ママの胸」とでは与えるイメージ(子供の年齢、抱きかかえた姿勢等)に相違があること,〔3〕原告スローガンにおいては,3句構成からなる5・7・5調が用いられ,全体として,リズミカル,かつ,ゆったりした印象を与えるのに対し,被告スローガンにおいては,2句構成からなる7・5調が用いられ,極めて簡潔で,やや事務的な印象を与えること等から,前記各相違は,決して些細なものではなく、いずれも原告スローガンの創作性を根拠付ける部分における相違といえる。
そうとすると,両者は,前記の共通点があっても,なお実質的に同一のものということはできない。
以上のとおりであるから,被告スローガンは,原告スローガンについて原告が有する複製権を侵害しない(なお,前記と同様の理由から翻案権侵害もない。)。
なお、この事件で、判決は、次のような文章を書いております。
弁護士なら、皆、これを遵守励行するべきでしょう。
審理経過について
本件は,第1回口頭弁論期日の審理をした後,続行期日を指定することなく,即日終結した。これは,双方訴訟代理人の迅速な訴訟活動の成果である。
すなわち,被告側は,第1回期日より1か月以上の余裕をもって,詳細な答弁書及び証拠を提出し,原告側も,第1回期日当日に,答弁書に対する反論のための詳細な準備書面及び証拠を提出したため,裁判所は,第1回期日に必要な審理のすべてを行うことができた。そして,裁判所は,双方代理人の進行意見を聴取した上,弁論を終結した(なお,弁論を終結した後に和解手続を1回実施した。)。
我が国の民事訴訟では,弁論期日を何回か開いて順次内容を深めていく審理が慣行的に行われており,そのような審理方式には合理性があるといえる。しかし,訴訟代理人の十分な協力と理解があれば,第1回目の弁論期日において審理を尽くして終了させることもできるのであって,当裁判所としては,事件の性質に応じて,今後もこのような審理方法を拡大していくための努力を続けたい。迅速審理のための尽力に対し,双方訴訟代理人に深甚なる敬意を表する。