コラム
相続と登記 5 遺産分割前の登記⑤ 相続分の譲渡の登記は可能か?
2012年9月4日
Q 私は相続分を母に譲渡したいと思いますが、相続分の譲渡の登記ができますか?
A 不動産については、登記原因を「相続分の贈与」又は「相続分の売買」にする相続分の移転登記は可能です。
1相続分と相続分の譲渡
相続分とは、財産と債務を含んだ、全相続財産に対する相続割合を言います。もろもろの財産と債務を包含した相続財産に対する“包括的な分数割合”とも言われます。
民法905条1項は「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。」と規定していますので、相続分が他の相続人や第三者に譲渡が出来ることは明らかです。
ただし、相続分の譲渡は、遺産分割前にしなければ効力はありません(最判平13.7.10参照)。
2相続分が第三者に譲渡された場合
この場合は、第三者が、相続人の地位を承継します。当然、第三者を遺産分割に参加させなければなりません(東京高決昭28.9.4)。
3他の共同相続人への相続分の譲渡
これは実務上結構多く見られます。
4相続分の譲渡の公示方法
相続分そのものの譲渡を公示する制度はありません。しかし、不動産については、登記原因を「相続分の贈与」又は「相続分の売買」にする相続分の移転登記は可能です。
⑴ 共同相続登記前の相続分の譲渡の登記
遺産分割前の法定相続分又は指定相続分による相続登記ができることは、本連載コラムの1と2で解説しましたが、その登記をする前に、相続分の譲渡があった場合、譲受人が他の相続人である場合は、直接譲渡後の相続分による相続登記ができます(昭59.10.15民三5196民事局第三課長回答)。無論、この場合も、相続分を譲渡する相続人の印鑑証明書付き「相続分譲渡証明書」が必要になります。
相続分の譲渡が第三者に対してなされた場合は、次の⑵の方法で相続分の移転登記をしなければなりません。
⑵ 共同相続登記後の相続分の譲渡の登記
この場合は、登記原因を「相続分の贈与」又は「相続分の売買」にすれば、相続分の譲受人を登記権利者、譲渡人を登記義務者とする共同申請で、可能です。
5登記をしなくともかまわない
相続分の譲渡後の相続分で、遺産分割が成立すれば、その結果の登記はできるので、むろん、必ずしも、相続分の譲渡の登記をする必要があるわけではありません。
実務上見られる相続分の譲渡は、ほとんどが、相続人から他の相続人への譲渡であり、その場合、相続分の譲渡を登記することは、ほとんどない、と言って良いでしょう。
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