民法と税法 3 時効取得(財産を時効取得したときの税金と時効取得の時期)
1 相続分の譲渡
相続分の譲渡とは、相続人が遺言で指定された相続分(指定相続分)、又は、遺言による相続分の指定がない場合は、法律で定められた相続分(法定相続分)を、他の相続人又は第三者に、譲渡することをいいます。
例えば、夫が亡くなり、相続人が妻と長男、長女の3人とした場合で、遺言による相続分の指定がないときは、相続分は、法定相続分になり、妻が1/2、長男が1/4,長女が1/4になりますが、この相続分は譲渡することが可能です。
相続分が、妻1/2、長男1/4,長女1/4の場合で、妻がその相続分1/2を長男に譲渡すると、長男の相続分は1/4+1/2=3/4になり、長女の相続分は1/4のままですから、この割合で、長男と長女の間で遺産分割がなされることになります。
2 問題
上の例で、妻が相続分1/2を、無償で、長男に譲渡した場合、長男に贈与税など、何らかの税金が発生するでしょうか?
3 答え
相続人間で、無償で、相続分を譲渡しても、贈与税は生じません。
なお、東京地判昭62.10.26は、相続分の譲渡と相続税の関係について、
① 相続税法は、各共同相続人が現実に取得した財産の価格に応じて相続税を課することを原則(相続税の課税原則)としている。
② 相続税の申告期限までに、遺産の全部又は一部が未分割の場合には、未分割財産については、各共同相続人が民法(904条の2を除く。)の規定による相続分に従って未分割財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算する旨を定めている。
③その場合の相続分とは、民法900条ないし904条の規定により定まる相続分(筆者注:法定相続分又は指定相続分)のみをいうものではなく、共同相続人間で相続分の譲渡があった場合における当該譲渡の結果定まる相続分(譲渡人については法定又は指定相続分から譲渡した相続分を控除したものを、譲受人については法定又は指定相続分に譲り受けた相続分を加えたもの)も含まれる。
旨判示しているところです。
4 理由
相続人間で、遺産分割をする場合、相続分通りにしなくとも、相続税以外に、所得税や贈与税はかかりません。
ですから、相続人間で、相続分を譲渡した結果、相続人間の遺産分割が、本来の相続分どおりでなくなっても、所得税や贈与税はかからないのです。すなわち、妻が長男に相続分を譲渡すると、長男の相続分は3/4になり、相続分が1/4の長女と遺産分割をしますが、これは、相続分の譲渡をしない遺産分割で、妻はなにも相続せず、長男が3/4を、長女が1/4を取得する遺産分割をするのと変わりがないことになるからです。
5 では、相続分の譲渡を有償でした場合は?
これは、代償分割と同じですので、コラム「税金と代償分割」を参照して下さい。