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ぎりぎりの攻防 2

菊池捷男

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テーマ:民法雑学

前回のコラム「ぎりぎりの攻防1」に登場したB弁護士、今度は、立場を代えて、被告の代理人として、裁判所で、和解の席に着く。

B弁護士
2100万円が限度です。被告会社は経営が不安定な会社です。社長夫妻が老後の資金にと、契約してきた企業年金保険を解約して、2000万円を作り、これに何とか100万円を工面して、合わせて2100万円を作り、これをお支払いすると言っていますが、これが限界です。

原告代理人
B先生のご努力には感謝していますが、原告夫婦も、1人息子を被告会社の過失による労災事故で亡くしていて、2100万円ではどうしても納得できないと言っています。あと300万円を作り、2400万円を支払っていただけないでしょうか。裁判所の方からも、被告を説得してしてはいただけないでしょうか?

裁判官
資力がないと言われる場合の適正な和解額など提示しようもありませんが、被告は2100万円なら支払う。原告は2400万円までなら譲歩する、と言っているのですから、300万円の差だけで、今、和解を壊すのは惜しいと思います。裁判所としては、その中間の金額である2250万円を、裁判所案として提示したいと思いますが、原告代理人と被告代理人とは、それぞれその線でまとめるよう、依頼人を説得していただけませんか?

原告代理人
私の場合は、裁判所の案ということなら説得できると思いますが、被告代理人はどうですか?

B弁護士
私の場合は、説得は不可能だと思います。ねえ、先生(原告代理人のこと)、私は、先日、1000万円を支払うという相手方の提案に対して、1100万円まで譲歩しましたが、その差額100万円を埋めることができず、示談を壊してしまい、依頼人に1円の賠償金も得させることができなかった苦い経験を持っているのですが、今回、そうならないことを祈る気持ちです。どうか、原告夫婦を説得して2100万円で和解を成立させてはいただけませんか?

原告代理人
少し時間をください。今、原告の控え室に、原告夫婦を待たせていますので、話をしてみます。

暫くして、原告代理人が和解の席に戻る。
原告代理人
原告夫婦は、2400万円は最低額だ。1人息子を失った悲しみは被告には理解できないだろう。被告のいう2100万円では、被告に誠意があるとは思えない。お金が目的でこの訴訟を起こしたものではないので、かりに1円も支払ってもらえない結果になってもやむを得ない。被告に誠意を見せてもらいたい。そのためには最低でも2400万円は支払ってもらいたい、と言っているのです。

裁判所
では、この和解は打ち切り、後は判決になりますが、いいですか?
原告代理人
やむを得ません。
B弁護士
残念ですが、やむを得ません。

その後暫くして、判決が言い渡された。賠償金は3000万円超であった。
さらに、暫くして、原告代理人が申立てた、仮執行の宣言つきの判決に基づく、被告の銀行預金、県や市に対する公共工事代金の差押えがなされた。

その数ヶ月後、B弁護士は、原告代理人から電話連絡を受けた。
原告弁護士
先生、こんなお願いができた義理ではないのですが、例の件、2100万円とは言いません、現在、被告が支払える金額で結構ですので、気の毒な原告夫婦に、判決認容額の一部でもいいですから、支払うよう、被告に伝えていただけませんか?

B弁護士
ああ、先生、やっぱ心配したとおりになりましたね。現在、被告会社は倒産しています。理由は、先生がされた預金や工事代金に対する差押えだけではなく、経済の不況です。この不況がなければ、また違った結果になったかもしれませんがね。先生のお話は、被告の社長に伝えますが、よい答が得られなかったときは、私から先生には連絡しません。私から連絡がないときは、良い答が得られなかったものとご理解下さい。

原告弁護士
わかりました。では、よろしくお願いいたします。

その後、B弁護士から原告代理人に連絡することはなかった。

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菊池捷男(弁護士)

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