契約書知識 16 契約書の表記は公用文表記法による
最近、契約書の中に、秘密保持に関する条項を設けることが多くなっています。
1 契約条項を書く必要性
秘密保持契約条項を結ぶ理由には二つあります。
一つは、自社が「秘密として管理している情報」を契約の相手方に開示することにより、自社の競争力や信用が低下しないようにするためです(実質的な理由)。
もう一つは、不正競争防止法で保護される「営業秘密」の要件具備のためです。
すなわち、不正競争防止法2条6項が「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と規定していますので、自社の「情報」を法律上の「営業秘密」として認められるようにするため、この要件(①有用性、②非公然性及び③秘密管理性)を満たす内容であることを明らかにしておくため(要は、形を整えるため)です。
その他、その条項を書くにあたって、書き落としてならない事項は、
1 秘密情報の定義
2 秘密保持の内容
3 秘密情報が記載・記録された資料の返却
4 有効期間についての存続条項
5 その他
です。
【条項例】
1 秘密情報の定義
保持の対象となる「秘密情報」に該当するかどうかをめぐって紛争が起きないよう、例えば次のように、除外事由も含めて明確に定めた方がよいと思います。
第○条(秘密情報)
本契約において秘密情報とは、相手方から開示・提供をうけた情報及び資料のうち、次の各号の一に該当するものをいう。
(1)書面またはサンプル等の物品により開示・提供される場合は、秘密である旨の表示があるもの。
(2)電磁的記録化された情報として、記録媒体により開示・提供される場合は、該当記録媒体に秘密である旨の表示を付した上、当該情報を情報機器で画面表示する等可視性のある状態にした際に、当該情報が秘密である旨の表示があるもの。
(3)電磁的記録化された情報として、電子メール等により開示・提供される場合は、当該情報を情報機器で画面表示される等可視性のある状態にした際に、当該情報が秘密である旨の表示があるもの。
(4)電磁的記録化された情報として開示・提供される場合で、秘密である旨の表示を付すことが性質上できないときは、開示・提供の際に書面または電子メールのいずれかにより秘密である旨を明示されたもの。
(5)口頭または映像等の視覚的手段によって開示・提供される場合は、開示・提供の際に秘密である旨を開示されたもの。ただし、情報及び資料の概要が記載され、かつ秘密である旨の表示がされた書面が、開示・提供のあった日から15日以内に交付された場合に限る。
2.前項の規定にかかわらず、次の各号の一に該当するものは、秘密情報に含まれないものとする。
(1)公知・公用のもの
(2)開示・提供を受けた後、自己の責によらずに公知・公用となったもの。
(3)開示・提供を受けた際、既に自ら所有していたことを立証し得るもの。
(4)正当な権限を有する第三社から秘密保持義務を負うことなしに入手したもの。
(5)開示・提供を受けた後、秘密情報とは関係なく、独自に創出したことを立証し得るもの。
2 秘密保持の内容
○○及び○○が負う秘密保持義務の内容を明確にするため、例えば次のように定めた方がよいと思います。
(通常バージョン)
第○条(秘密保持義務)
乙は、秘密情報を保持し、本契約に定めた目的以外のために使用し、又は、第三者に漏えいしてはならない。ただし、裁判所からの命令、その他法令により開示しなければならない場合はこの限りでない。
2 甲は、甲の役員及び従業員に対し、その在職中及び退職後においても、本営業秘密について、秘密を保持するよう義務付ける。
第○条(秘密情報の管理)
乙は、甲の事前の書面による承諾のない限り、秘密情報が記載又は記録された書面及び媒体の複製及び変更を行うことはできない。
(厳格バージョン)
第○条(秘密保持義務)
甲及び乙は、秘密情報につき、秘密として厳重に管理するものとし、書面又は電子メールによる相手方の事前の承諾を得ることなく、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
(1)第三者に開示・漏洩すること。
(2)本検討の目的以外に使用すること。
(3)リバースエンジニアリングをすること。
(4)複製すること。
第○条(従業員等への開示・提供の制限)
甲及び乙は、本検討に携わる自己の役員及び従業員以外の者に秘密情報を開示・提供してはならない。
※ 本条は、以下のようにして、役員や従業員への開示を制限しない代わりに守秘義務を課す、という方法もとり得る。
第○条(役員等の秘密保持義務)
甲及び乙は、各々の役員及び従業員に対し、その在職中及び退職後においても、秘密情報について、秘密を保持するよう義務付ける。
※ 秘密情報を特定の第三者に開示できる条項を入れる場合の例
第○条 前条の規定にかかわらず、乙は、本契約の履行に必要な範囲内で、甲から開示・提供を受けた情報及び資料を、○○(以下、丙という)に対して開示・提供することができるものとする。この場合、乙は本契約により自らが負う義務と同等の義務を丙に対して負わせるものとし、丙の行為について一切の責任を甲に対して負うものとする。
第○条(法令に基づく開示命令の場合の特例)
甲及び乙は、秘密情報につき、裁判所または行政機関から法令に基づき開示を命じられた場合は、次の各号の措置を講じることを条件に、当該裁判所または行政機関に対して当該秘密情報を開示することができる。
(1)開示する内容をあらかじめ相手方に通知すること。
(2)適法に開示を命じられた部分に限り開示すること。
(3)開示に際して、当該秘密情報が秘密である旨を書面により明らかにすること。
3 秘密情報が記載・記録された資料の返却
契約が終了した後の秘密情報の処理について、例えば次のように定めて、明確にした方がよいと思います。
第○条(情報・資料の返却等)
甲及び乙は、次の各号の一に該当するときは、相手方の選択に従い、直ちに秘密情報(以下、本条においては複製物も含む)を相手方に返却し、または自己の責任において破棄もしくは消去しなければならない。
(1)その使用目的が終了したとき。
(2)相手方から要求があったとき。
(3)本契約が終了したとき。
2.甲及び乙は、前項における秘密情報の破棄または消去にあたって、当該秘密情報を認識・使用できない状態にしなければならず、相手方から要求があったときは、当該秘密情報を破棄または消去したことを証明する書面を相手方に提出しなければならない。
4 有効期間についての存続条項
例えば次のように定めて、契約終了後も○○が秘密保持義務を負うようにした方がよいと思います。
(期限付きバージョン)
第○条(契約の有効期間)
本契約の有効期間は○○年○○月○○日から○○年○○月○○日までとする。ただし、この期間は、甲及び乙の書面による合意によって変更することができる。
2.前項の規定にかかわらず、本契約が期間満了、解除等により終了した場合においても、本契約に基づく秘密保持等の義務は、本契約終了後3年間有効に存続するものとする。
(無期限バージョン)
第○条(有効期間)
有効期間は、本契約締結後○年間とする。ただし、甲及び乙の協議により、当該有効期間を延長することができる。
2 本契約中、第○条(秘密保持の義務)の規定は、本契約の終了又は解除後も有効に存続する。
5 その他
解除原因、損害賠償条項(損害賠償額を予定しておくことが望ましい)、誠実協議条項、合意管轄条項等、契約書における一般的な条項にも注意してください。