コラム
相続 46 遺留分減殺請求の効果
2010年11月17日
「相続分の指定」により、遺留分を侵害された相続人から、遺留分減殺請求を受けたとき、どのような法律効果が生ずるのか?
相続人への「包括遺贈」の場合はどうか?
1 「相続分の指定」の場合
これを、東京地方裁判所平成3.7.25判決の事案で解説します。
この事案は、被相続人が、複数の相続人(共同相続人)がいる中で、その1人である甲に、「全遺産を相続させる」旨の遺言を残して亡くなりました。甲はその遺言に基づき、被相続人名義の不動産につき、相続登記をして甲の名義にしたのですが、その後で、甲は、他の共同相続人である乙から、遺留分減殺請求を受け、甲が相続登記をした不動産について、「遺留分減殺」を原因とする遺留分率の共有持分移転登記を求める訴訟を起こされた事案です。
この地裁判決は、
① 被相続人による相続分の指定は、遺留分減殺請求により、減殺請求をした相続人の遺留分を侵害する限度で効力を失う(民法902条1項但書)。
② これにより、各共同相続人が取得する財産の割合は修正される。
③ しかしながら、それによって相続財産を構成する個々の財産に対して具体的な権利・義務が生ずるものではない。
④ 個々の財産をどう分けるかは、共同相続人間で遺産分割協議をする必要がある。
⑤ であるから、乙は、遺留分の減殺請求をしただけでは、甲名義になった相続財産について、登記の変更を求めることはできない。と判示し、請求を棄却しました。
2 相続人への「包括遺贈」により、遺留分減殺請求がなされた事案
東京地方裁判所平成2.10.29判決の事案は、1の事案とは「相続人への相続分の指定」と「相続人への包括遺贈」との違いがあるだけの、同じような事件です。
東京地裁は、
相続人への「包括遺贈」を「遺言による相続分の指定」と同じだと見て、1の判決と同じ見解によって、遺留分権利者からの遺留分(この事件は1/24)の共有持分の移転登記を求める請求を棄却しました。
ところが、この控訴審である東京高等裁判所平成3.7.30判決、上告審である最高裁判所平成8.1.26判決は、そのような見解をとりませんでした。
最高裁判所は、「相続人である甲への包括遺贈」に対して遺留分権利者乙が減殺請求権を行使した場合、「遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分減殺請求をした遺留分権利者に帰属する」との最高裁昭和51.8.30判決を引用して、遺留分減殺請求によって回復した権利は遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。したがって、遺留分権利者乙は、甲に対し、遺留分割合の持分移転登記を求めることができる、と判示しました。
この連載コラムの「相続 44」では、相続人への「包括遺贈」は「相続分の指定」であるとの裁判例を紹介したばかりですが、本コラムで紹介した最高裁判所判決は、この事例では、明らかに、「相続分の指定」と「包括遺贈」で違う扱いをしています。
この最高裁判所の射程距離が気になるところです。
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