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行政 10 市はみだりに公金を支出すべからず、なの?

2010年10月8日 公開 / 2016年3月15日更新

テーマ:地方行政

コラムカテゴリ:法律関連


最高裁判所平成22.2.23判決を紹介します。
1 事案
A市には市営のと畜場がありましたが、これを廃止することになりました。このとき、A市はと畜場を利用していた畜産業者等に対し、「支援金」を支給しました。
A市が、このような金銭の支給をするには、法的には「補償金」か「補助金」になるのですが、A市が支給した支援金は、一般会計補正予算に関する説明書では「補償、補填及ぶ賠償金」の節に計上され、議会で議決されたものでした。
そして、市長は、畜産業者等との間に支援金の支払いに関する契約を結んで、支援金を支払いました。この支援金が補助金として支払われる場合は、「A市費補助等取扱要綱」の手続に従わなければならなかったのですが、A市長は、その手続には従いませんでした。
これに対し、A市の住民が、A市長が畜産業者等に対して支援金を支払ったことは違法な公金の支出であるとして、市に代位して、A市長に対し損害賠償の請求訴訟(地方自治法243条による住民訴訟)を起こしたのです。

2 判決
一審は、住民の主張を認め、A市長に対し、約3億1000万円の支払いを命じました。
二審は、本件支援金の支払いには合理性があり、公益上の必要性も認められるので、A市長の支援金の支給は違法ではないとして、一審判決を取消し、住民の請求を棄却しました。
最高裁判所は、本件と畜場は、やむなく廃止されたのであり、そのことによる不利益は住民が等しく受忍すべきものであるから、畜産業者等が本件と畜場を利用し得なくなったという不利益は、損失補償を要する特別の犠牲には当たらない、と判示し、本件支援金が、「補償金」の意味なら違法だが、「補助金」の意味なら、その要件を満たしているかどうかについて十分な審理がなされていないので、原判決(二審の判決)を破棄し、二審に差し戻す、との判決を出しました。

3 補償金
補償金とは、憲法29条3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」という場合の補償金です。補償金の代表格が、土地収用法で土地を強制的に収用された者に支払われる補償金ですが、国有財産法19条、24条2項では、行政財産の借受人が、その行政財産を公共用等に供される関係で、その借受契約が解除されたときも、損失補償を請求できる、と定めています。
しかし、本件と畜場と畜産業者との間には契約関係はありません。と畜場は、誰でも、使用料さえ支払えば利用できる行政財産だったにすぎません。
そこで、最高裁判所は、支援金が、補償金としての支払いなら違法だとしたのです。

4 補助金
補助金とは、地方自治法232条の2で「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、・・補助をすることができる。」と規定している補助金です。補助金を支給するには「公益上必要」であることと「合理的」であることが要件になっています。

5 一、二審も、支援金を補助金と考えていたようです。
一審判決は、「公益性」なしとして住民を勝たせ、二審判決は「公益性」ありとして住民を敗訴させました。もし支援金が「補償金」なら公益性は要件になりませんので、一、二審とも、支援金が補助金として支給された面もあることに触れたのだと思われます。そこで、最高裁判決は、支援金は補償金というのなら違法だが、補助金だというのなら、その要件を満たしているかどうか、審理をやり直せ、と判示したのです。
ところで、この最高裁判所の判決は、支援金が、補助金だとする場合、それが補助金として議会の予算の承認決議を得ていない点を、問題点として指摘しております。
おそらく、市議会も、補償金として予算が建てられると、公益性を考えることなく承認し、補助金として予算が建てられると、公益性や合理性を考え、予算審議がより慎重になると思われるからです。
(少し細かい話になり、恐縮ですが、地方自治法216条には「歳出にあっては、その目的に従ってこれを款項に区分しなければならない。」と定め、220条2項では「歳出予算の経費の金額は、各款の間又は各項の間において相互にこれを流用することができない。」と規定していますが、その下の目節での流用について規定はありません。しかし、本件事案では、本件支援金が補償金の節に置かれたことによって、実質的には補助金としては議会の審議がなされていないと考えられますので、最高裁判所は、その点を特に注意したのだと思われます。)


6 この判決が教えるもの
自治体は、安易に、金銭を支出すべきではない、ということだと思います。
要件を満たしていないのに、安易に、公金を支出すると,A市長に対する一審判決のように、その金額の賠償が命ぜられることになる危険があるのです。
ただ、最高裁判所は、下級審の判決に比べ、補助金の支給については、司法判断を避ける傾向があるように思われます。
これは、本連載コラム「行政11」で説明します。

参照:
住民訴訟
地方自治法243条
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求(注:監査請求)をした場合において、・・監査委員の監査の結果・・に不服があるとき・・裁判所に対し、・・訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
4号 当該職員・・に対する・・損害賠償・・の請求・・・

普通財産
国有財産又は地方公共団体の公有財産のうち、国又は地方公共団体の事務、事業等の用に供する公用財産等の行政財産以外の一切の財産をいう(国有財産法3条3項、地方自治法238条3項、④項~238の5)。

行政財産
国有財産又は地方公共団体の公有財産のうち、行政上の特定の用途又は目的に供されるもの。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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