地方行政 4 行政財産の目的外使用許可から賃貸借契約締結へ
1 政務調査費
地方自治法100条14項に、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない。」という規定が置かれています。
これが「政務調査費」です。
2 問題点の指摘
政務調査費は、支出の実態が不明朗であり、視察と称して観光旅行をする等、本来の趣旨にそぐわない支出が窺える等の問題点が、多くの自治体で指摘されています。
3 住民監査請求
地方自治法242条は、普通地方公共団体の住民に、当該普通地方公共団体の長・委員会・委員・職員に、違法・不当な公金の支出等があると認めるときは、監査委員に対し、監査を求め、違法・不当な公金の支出等の防止・是正・損害の補填等の措置を講ずべきことを請求することができる、という住民監査請求の権利を認めています。
4 最高裁判所平成21.12.17判決の事案
東京都のA区の区長が、「A区議会における政務調査費の交付に関する条例」に基づき、A区議会のB会派に、政務調査費を交付したことについて、甲という住民が,B会派が視察旅行等の経費に充てた政務調査費に、条例で定める使途制限の違反があるとして、住民監査請求をしました。それを受けて、A区の監査委員は、B会派に、視察旅行に関係する経費の内容等について文書の提出を求め,B会派からそれらの文書の提出を受けました。
その後、監査委員は、監査を請求した甲に、監査委員は、B会派のした支出を精査したが、それらは適正な政務調査費と認められる、というだけの理由を付して、監査請求を棄却する、との監査結果を通知しました。
それに対し、甲は、「A区情報公開・個人情報保護条例」に基づき、A区監査委員に対し、監査委員がB会派から提出された文書の公開を請求したのですが、A区監査委員事務局長は、その文書は、条例に定める非公開事由8条6号アに該当するとして、非公開決定を下しました。
そこで、甲は、この非公開決定の取消しおよび当該文書の公開決定の義務付けを求める訴えを提起しました。
5 原審である東京高裁の判決
甲の請求を認めました。
6 最高裁判所の判決
最高裁は、要旨、
① 政務調査費の性格として、
政務調査費は、議会の執行機関に対する監視の機能を果たすための政務調査活動に充てられることも多く、執行機関からの干渉を受けないものである。したがって、監査委員から説明を求められても、具体的な目的や内容についての報告義務はないものである。
② 監査委員の監査の重要性
監査委員は、政務調査費についてB会派から文書で報告を受けたが、これは任意で受けたのものであり、このような文書が公開条例により公開させられるときは、今後、政務調査費に関しては、区議会議員や会派は、監査委員に対し回答することに慎重になるだろう。そうすると、監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになる。
③ 結論
したがって、当該文書は非公開文書に該当する。
なお、政務調査費でも、議会から出納帳に提出された政務調査費に係る支出命令書等については、非開示事由に該当しないとされています(東京都の事件。東京高等裁判所平成10.6.29判決。最高裁判所平成11.4.13判決をこれを支持)。これは、法令(東京都会計事務規則)により提出が義務づけられたものだからです。6の最高裁判所判決とは事案が違います。この事件は、監査委員が会派から受け取った文書が任意で提出されたものだからです。
参照:
・地方自治法199条8項
「監査委員は、監査のため必要があると認めるときは、関係人の出頭を求め、若しくは関係人について調査し、若しくは関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求め、又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができ。」
・行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。
・同法5条
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
:不開示情報6号
・・・地方公共団体・・が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ監査・・・に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ