自治体のする契約 2 私法上の契約と公法上の契約
那覇地方裁判所は、平成21.12.22、生活保護の開始を仮に義務付け、申立人に生活扶助、住宅扶助、医療扶助を受けさせることを、那覇市福祉事務所長に命じました。
生活保護は、言うまでもなく、憲法25条の理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする(生活保護法1条)制度です。
そして、すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、保護を、無差別平等に受けることができる(2条)のです。
保護には、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助があり、これらの扶助は、要保護者の必要に応じ、単給又は併給として行われます(11条)。
そして、保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定することになっています(24条1項)が、その決定が実施機関の自由裁量によるものではないこと、当然です。
ただし、生活保護法は「保護の補足性」として、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ(4条1項)、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする(4条2項)と定めています。ただ、「急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない(4条3項)ことになっています。
この事件で問題になったのは、申請者が、過去に年金担保貸付を利用するとともに生活保護を受給していたことでした。那覇市では、このような者は、生活保護法4条1項の要件を満たさない、という運用をしていたのです。多くの自治体も同じではないかと思えます。
しかしながら、このような運用は、生活保護法2条に抵触するとの疑義がかねて主張され、問題のある運用だったと言えるのですが、この決定は、そこまでの判断に立ち入ることなく、結論として、生活保護開始の仮の義務付け決定を出しています。
なお、この決定に対しては福岡高裁那覇支部に即時抗告がなされましたが、棄却され、確定しております。
要は、生活保護の受給も緊急性のある問題ですので、仮の義務付けがなされ得るのです。
参照:
年金担保貸付け制度
独立行政法人福祉医療機構のみが、独立行政法人福祉医療機構法12条1項12号でなし得る「厚生年金保険法又は国民年金法に基づく年金たる給付の受給権者に対し、その受給権を担保として小口の資金の貸付けを行う」事業です。