お墓の文字彫刻の技法[後編]

能島孝志

能島孝志

「薬研彫り」にて彫り上げた五輪塔の梵字
墓石への文字彫刻にもさまざまな技法があり、
前回取り上げた「縁彫り」や文字や家紋の周囲を掘り下げて
浮き出させる「浮かし彫り」のような特殊な彫り方もあれば、
昔ながらの伝統的な彫り方もあります。

しかしながら、伝統的な字彫りの中でも、
一見同じように見えて微妙に彫り方が異なっていることがあります。

先ずは、文字の太さに比例して彫る深さを変える「一杯彫り」。
太い線は深く、細い線は浅く、と文字の筆幅と同じ寸法まで深く彫る技法で、
文字の陰影に立体感が出て趣が増します。

深さの限界まで「一杯に彫る」というところから付いた名称です。

また、文字の断面形状によってもいろいろな彫刻技法があります。
文字をV字状に彫る「薬研(やげん)彫り」もその中のひとつで、
梵字などの彫刻でよく見かけます。

薬研とは、生薬を粉末にするために漢方薬で用いられる金属製の器のことで、
中央がV字型にくぼんだその形状から彫刻名が由来しています。

薬研彫りにて彫刻された文字は陰影のコントラストが強く出るため、
遠目にも文字がくっきりと映えます。

文字の断面形状が丸い彫り方は「円(まる)彫り」と呼ばれます(丸彫りとも書く)が、
筆幅の半分以下の深さで浅く仕上げる刻字法を「皿彫り」、
小文字の彫刻でよく使われるものは「篠(しの)彫り」と呼ばれます。

これは、篠竹(笹類の俗称)の円い曲線を彫刻に活かしつつ、
篠竹を縦割りしたときの縁の鋭さを表現しようと試みられた刻字法です。

文字の断面形状の底を平たく仕上げたものを「平彫り」といい、
断面形状をカマボコのように仕上げるものは
「イカク彫り(蒲鉾彫りともいう)」と呼ばれています。

その他にも、サンドブラストをかけた後で
底をさらうように手仕事で仕上げる「サライ彫り」や、
10㎝角以上の文字を円彫りした字彫り面をさらにノミで梨地肌に仕上げる
「梨地彫り」など多種多様の彫刻技法があり、奥深いものです。

お墓の形や石材の種類にこだわる人は数多くいますが、
文字の彫り方にまで好みを主張する人は少ないでしょう。

お墓に刻む文字も、最近ではコンピューターで制作された筆文字を使用し、
中国で彫刻されたものや、全自動字彫りロボットによって彫刻されたものも数多く出回っていますが、
果たしてこれが心のこもったお墓と言えるでしょうか?

私ども第一石材では、真心を込めて揮毫された書家・千葉正幸氏の直筆文字を使用し、
日本三大石材加工地のひとつ、香川県「庵治(あじ)・牟礼(むれ)」の
文字彫刻師・宮本力夫氏による卓越した熟練技にて彫り上げております。

文字は「お墓の顔」、彫り方ひとつで墓石の表情も変わるものです。
機械化された文字とは一線を画した「手書き」「手彫り」文字は、美しく、
そして確固たる存在感にあふれています。

//////////////////おわり/////////////////

※日本石材工業新聞連載「これからの墓・字彫りの技法②:林ひろみ氏著」参照

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能島孝志
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能島孝志(1級お墓ディレクター)

株式会社第一石材

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