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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

空き家問題に対する「無関心期」から「関心期」へ移行する規定因とは何?~住まいの終活を考えるシリーズ⑪~

2022年12月7日

コラムカテゴリ:住宅・建物

(規定因の要素)
今回は、空き家問題に対する無関心期から、具体的な対策はしていないもののそれを意識し始める関心期へと住宅所有者を移行させる規定因について取り上げてみたい。それは、移行を促進させる、或いは反対に抑制する要因であったりするが、住宅所有者の意識を変容させるような危機感、有効感、責任感、個人規範、社会規範などが該当する。

(危機感)
空き家が招くリスクへの危機感が弱ければ、空き家問題には無関心に成りがちだ。住宅所有者に健全なリスクを抱かせる方法として、次のような空き家が原因で生じる損失や責任を分かりやすいメッセージで伝えることである。

一つ目は、近隣の住民に与える不利益である。具体的には、不審火、屋根や外壁材の飛散や落下、家屋の倒壊、犯罪の発生、不審者の不法侵入、ゴミの不法投棄、雑草の繁茂、地域活動の停滞、買い物施設の撤退、公共施設の老朽化など、主に外部不経済の発生への認識を指す。

二つ目は、家計への負担である。既述したような固定資産税の負担、電気、ガス、水道の基本料金、建物の修繕費、隣接する建物や通行人等に損害を与えた場合の賠償責任などがある。

三つ目は、行政から指導等を受けることに伴う負担である。空き家対策特別措置法の特定空き家等に指定されれば、勧告、命令、行政代執行以外にも住所や氏名の公表もあり得る。その負担は費用に留まらず、精神的にも無視できないだろう。

空き家のリスクについて、できるだけ具体例を使って、リスクの発生プロセスや損失金額を認知してもらうことが効果的だと言える。そうすれば空き家問題を自分事として捉え、意識変容へと繋がりやすくなる。

(有効感)
空き家の発生予防に向けた行動が事後対策に比べ有効であることを、経済的・精神的・時間的、そして利害調整の視点から比較することが、関心を惹き起こすきっかけになり得る。

空き家期間が長期化すればするほど、建物の老朽化は確実に進む。外部不経済を発生させない程度の補修に留めるとしても費用は嵩み、その上に損害賠償責任を負うことにでもなれば、負担は増大する。また、これらに関わらず公租公課や光熱水費などの管理維持費は毎年発生する。事前対策に要する経済的負担に比べ、事後対策は通常それを上回るであろう。

自宅が空き家になり課題が顕在化すれば、既述したような経済的負担が重なり、それに伴い精神的負担も増してくる。加えて、近隣の居住者や行政と交渉事になれば、そのストレスも無視できない。もちろん事前対策にも、先送りをしない意識や行動の変容が求められるため、様々な負担が伴う。しかし、眼の前に課題が迫っている方が、負担感は大きいと言えるだろう。

一般的に利害調整の対象は、事後対策の方が多くなると考えられる。空き家を放置し二次相続や更に三次相続が発生すれば、空き家の共有者は増加し、共有者間で空き家へのスタンスが異なっても何ら不思議ではない。同時に、近隣の居住者や行政といった親族以外の利害関係者も現れてくる。そうなれば自ずと利害調整は困難になってくる。

利害関係者の増加は、権利調整や費用負担などの課題解決に時間を要することを意味する。そして、時間の経過に伴い、利害関係者の空き家への関心も徐々に薄らいでくるため、更に調整が難航し空き家期間の長期化が見込まれる。事前対策にも利害関係者間の調整は伴うものの、早めに着手することで、早期に方向性が見いだせる可能性は高まるであろう。

(責任感・個人的規範)
そもそも論でなるが、住宅所有者には建物を適切に管理し、その安全性を維持する所有者責任がある。そのため、自宅が原因で近隣の建物や住民等が損害を受ければ、責任問題となる。

その点、分譲マンションでは、管理会社への委託や管理組合による自主管理によって、一定レベルの維持管理がされている。それに比べ、戸建住宅の所有者は建物管理への意識が相対的に低いことは否めない。

自宅が空き家になって維持管理を怠ることで、近隣への迷惑は避けなければならない。これは住宅所有者の責任でもある。また、家族の思い出が詰まった自宅を次世代へ承継することも、責任だという見方もできる。こういった視点から意識変容を促すことも大切だ、

(社会的規範)
特定の集団や文化に存在する暗黙のルールを社会規範と呼んでいる。私たちは多かれ少なかれ、社会規範に従って行動することが期待されている。そこから逸脱した行為は、時として他のメンバーから批判や困惑の感情を惹き起こし、逸脱者に制裁が科されることもある。

例えば、自治会などのコミュニティ組織が地域の空き家問題に取り組むことは、それ自体が社会規範となる可能性はある。そうなれば組織メンバーの言動が、他のメンバーの意識変容を促すことも十分に可能性だ。

(まとめ)
今回は、空き家問題に関心が乏しい無関心期から関心期へ移行するための規定因について考えてみた。それには危機感、有効感、責任感や個人的規範といった住宅所有者個人に関する因子と、社会規範のように他人がするから自分もするという集団の構成員に関する因子とに分けられる。

そして、住宅所有者へ、規定因に関するメッセージをどうやって伝えていくか、その方法にも工夫が欠かせない。この点は、●章(後日)取り上げる事例分析からヒントを探っていきたい。

次回は、「関心期」から空き家対策を実践する「行動期」に移行させる規定因を考察する。

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