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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

空き家発生防止に行動経済学を応用しよう~住まいの終活を考えるシリーズ⑩~

2022年11月30日

テーマ:空き家と住まいの終活

コラムカテゴリ:住宅・建物

(行動プロセスのモデル)
行動経済学を空き家の発生予防に応用するため、環境教育における心理プロセスモデル等を参考に、次の4段階からなる住宅所有者の行動プロセスを設定する。そして、無関心期から関心期、関心期から行動期、行動期から習慣期へそれぞれ移行するための規定因(促進要因ならびに抑制要因)を考察していく。

STEP1:無関心期
 空き家問題を気にしておらず、当然に空き家発生防止のための行動をしていない。
STEP2:関心期
 空き家問題を気にしているが、空き家発生防止のための行動はしていない。
STEP3:行動期
 何らかの空き家の発生を防止する行動はしているが、それが持続できていない。
STEP4:習慣期
 計画的に空き家発生を防止する行動ができている。

なお、前節では金融教育や金融行動で見られるバイアスを取り上げたが、まずは空き家の発生予防に纏わる行動を抑制するバイアスについて確認しておく。

(情報過少バイアス)
情報過多が原因で、金融商品の選択が遅れるとか、選択そのものを回避する傾向が強まり、その結果、金融情報の入手に無関心になってしまうバイアスが金融行動には見られた。

一方、空き家の発生予防に関する情報は、反対に過少と言えるだろう。住まいの終活に対する認知度はまだまだ低く、何をして良いかを知らない消費者が少なくない。そもそも誰に尋ねたら良いかすら分からないのが現状である。その大きな要因の一つが情報不足・過少である

つまり、空き家の発生を予防するにも情報が少なく、行動の遅れやそれを回避する傾向が強まり空き家問題に無関心になる、というバイアスが生じやすくなっていく。

(現状維持バイアス)
二つ目のバイアスが現状維持バイアスである。例えば、住宅の状況を調べるために必要書類の確認や入手をすることや、専門家への相談などの金銭的及び非金銭的な負担を煩わしく思えて、空き家の発生予防に必要な行動を先送りすることはよく見かける。

住宅所有者は、短期的な対策には負担に感じるが、自宅を空き家にしないことから得られる長期的なメリットを過小評価する傾向が強い。目先の利益や不利益に大きく反応しやすい。その一方で、対策の必要性は感じるものの、やるべきことが分からないという現状もあるだろう。

具体的には、次のような現状維持バイアスが見られる。
・まだまだ健康だし、相続が発生するのはしばらく先だ。
・家族で話し合うのは面倒だし、切り出しにくいので、しばらく様子を見よう。
・その時になって考えればいい。
・目の前の問題で手一杯で、先のことまで手が回らない。
・今、現在、困っている訳ではない。
・とにかく面倒、何とかなるだろう。
・自宅の将来は気になるが、どこから手をつけたら良いか分からない。

(損失回避バイアス)
三つ目は、損失回避バイアスであり、一般的には高齢になるほどそれは強くなっていく。空き家予備軍の所有者の多くは高齢であり、その子ども世代も決して若くはない。空き家の発生予防に取り組めば、様々な対策に時間や費用が割かれるため、このようなコストは避けたいという心理に陥りやすい。その結果、損失回避バイアスは現状維持バイアスに繋がっていく。

(フレーミング効果)
四つ目は、メッセージなどの提示方法の違いが行動に影響すると言われるフレーミング効果である。高齢者が多いことを考えれば、どのような方法で情報を伝えるかは極めて重要なポイントになってくる。例えば、空き家の発生予防の意義やメリットの発信が単発で終わるとか、自分事に思える具体的な事例が乏しければ、自分事として捉えられないため、期待する行動が難しくなる。


空き家の発生予防が必要だという意識や、又は具体的な行動に移そうとする際に、それらを抑制し回避しようとするバイアスが存在する。次回は、このようなバイアスを前提にした上で、空き家発生を防止する行動プロセスを前進させる規定因について検討していく。

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