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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

高齢者住宅・施設と選択のオーバーロード現象

2022年2月12日

テーマ:高齢者住宅・高齢者施設

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: エンディングノートまちづくり終活 いつから

選択のオーバーロード現象という言葉をご存知でしょうか。これまでの研究によって、商品選択肢が多くなるほど,消費者の購買率や満足度は低下することが報告されています。この現象が「選択のオーバーロード現象」と呼ばれ,過剰な選択肢を消費者は負荷と感じ、決断や行動が乱れ、その結果として購買行動を阻害する状態を言います。

また、選択肢の多寡は満足度に影響を与えなかったものの、選択肢を順次呈示して参加者の負荷を高めたところ,選択肢が多い条件において、満足度は低下することも報告されています。このような現象は、住宅の選択、とりわけ高齢者住宅・施設の選択の場面でも起きていると考えられます。

今回のコラムでは、高齢者住宅・施設の選択に纏わるオーバーロード現象を考えます。
・選択のオーバーロード現象と言われる事例
・高齢者住宅・施設選びと選択のオーバーロード現象
・必要な備え

【選択のオーバーロード現象の事例】
事例の一つに、ジャム売り場の試食コーナーの研究があります。6種類と24種類のジャムの試食コーナーに立ち寄った客の割合は、それぞれ30%と3%と大きな差が生じました。

このことは多くの商品を取り揃えても、知識の少なさから購買決定に至らないことが多いことを示す一例です。更に選択肢の数が多い影響だけではなく、選択肢がどれも類似していると明確な区別がつかないため、不満や不安が募り選択すら諦めてしまうことがあります。

このような問題は日用品などに限りません。住宅の選択でも同様なことが起こり得ます。特に高齢者住宅・施設は、知識がなければ類似点や相違点が分かりづらい商品です。多くの選択肢を絞り込むことも容易ではありません。以下に高齢者住宅・施設における選択のオーバーロード現象を見ていきます。


【高齢者住宅・施設選びと選択のオーバーロード現象】
高齢者住宅・施設に入居するために情報探索する者(以下、情報探索者)は、高齢者住宅・施設に対する理解(製品判断力)が必ずしも高くありません。その理由として、高齢者のニーズが多様で不確実であること、高齢者住宅・施設も多様な種類がありサービス内容などが変動すること、高齢者住宅・施設の居住経験が殆どないため選択基準を知らないことが挙げられます。

情報提供サイドは、多様で不確実性の高い高齢者のニーズに対応しようとします。しかし、インターネットを中心とした網羅的かつ膨大な情報量や情報の複雑さと曖昧さによって、逆に情報探索者の選択を混乱させ情報過負荷が発生していると推察できます。そのため情報探索者は、製品判断力が低いため選択のオーバーロード現象に陥りやすくなります。

【人的情報源の活用】
このような状態を改善するには、要約された情報で高齢者住宅・施設の特性と情報探索者のニーズを関連づける必要があります。それにはインターネットのような網羅的かつ多様な情報を提供する情報源よりも、高齢者住宅・施設の特性と情報探索者のニーズを十分に関連づけることのできる相談窓口などの人的情報源の活用が有効だと考えます。

人的情報源には、情報をやり取りできる「双方向性」と相手や状況で情報の内容を変えることができる「個別性」が備わっています。個別ニーズを把握して、それに応じた要約された情報が提供されれば、膨大な選択肢を絞り込むことも容易になります。筆者が行った調査でも、情報探索する者はネット情報よりも人的情報源を選好する傾向が強いという結果になりました。

【人的情報源へのアクセス】
今やインターネットの検索機能を使えば、高齢者住宅・施設の紹介業者など相談窓口が数多くヒットします。しかし、それがゆえにどこへ相談したら良いか情報探索者は迷い、選択が難しくなっています。そして、これまで高齢者住宅・施設に関する情報へのアクセスを如何にしやすくするか、という議論はそれほど活発に行われていません。

筆者が相談窓口を利用した者を対象に実施したアンケート調査によると、約9割の方が地域包括支援センターなど他からの紹介を受けて来所していることがわかりました。地域包括支援センターなどが相談窓口への仲介機能を担っていたといことです。

また、その利用者へのインタビュー結果から、情報探索の過程で地域包括支援センターなどの仲介機能を持つ場と接点がない者は、相談窓口の探索に苦労していました。一方で相談窓口をスムーズに利用できた者の多くは、知人などの紹介がきっかけでした。

相談窓口などの人的情報源へのアクセスを改善するには、身近な存在である自治会や町内会などのコミュニティ組織、また生活インフラとして定着しているコンビニや買物施設などを仲介の場として活用するのも効果的かもしれません。例えば、ヘルスケアローソンのようにコンビニと介護相談コーナーが同居するイメージです。

高齢者住宅・施設に纏わる選択のオーバーロード現象を緩和するには、情報探索者と人的情報源とをつなぐ仲介機能を拡充することが重要と考えます。

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菊池浩史

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