間違えやすい法令用語 25 以前・前・以後・後
法律概念の難しさ
1.概念と観念の違い
概念とは、客観的な定義づけができている用語である。
一方、観念とは、主観的な漠然とした思いである。したがって、観念は定義づけ不可能である。
2.法律概念
法律上の用語は、法律概念と言われる。
無論、客観的な定義付けが、法令の中又は判例で明確にされているのが通例である。
例えば、危険運転致死傷罪という犯罪がある。
これは「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(平成25年法律第86号)略称「自動車運転処罰法」)2条本文で、「次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。」と規定されている犯罪であるが、この条文の中で「次に掲げる行為」とされた1号から8号までの行為態様が、すなわち法令用語でいう「危険運転致死傷罪」ということになる。
3.法律概念も、具体的事実で書かれず評価的な用語を使う場合は、争いになること
前記法律の2条の2号は「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」を危険運転と規定しているが、この用語は、評価的な用語であるため争いが生じやすい。それが争点になった裁判例を紹介する。
4.争点になった行為
(1)判決内容
大分地方裁判所は、令和6年11月28日、19歳の男性被告人が大分市の県道上を時速194kmで車を運転し死亡事故を引き起こした事件で、同速度で自動車を走らせる行為は前記法律2条2号の「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」になり危険運転致死罪成立すると判示し、被告人に懲役8年の判決(当然実刑になる)を言い渡した。
(2)当初、検察官は消極意見であったが、後日変更したこと
なお、この事件、検察官は、たんなる過失致死事件として起訴したのであったが、それに納得しない遺族や類似の交通事故による被害者遺族らによる署名運動が起きるなどした後、検察官が訴因(起訴内容)を変更して危険運転致死罪に変更したという経緯がある。
5.問題点
法律概念も、評価的な用語を用いるなど、一義的明確性のない用語である場合は、争いになることが多い。
この事件があり、この判決があったことから、法律家や識者の間に、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」という法律概念を、もっと具体的にすべきではないか、例えば、法定制限速度の一定割合ないし一定速度を超えて自動車を走らせる行為は当然に当該法令用語に該当すると法律上明記するべきである等の意見が数多く見られるようになった。
ことほど左様に、法令用語(法律概念)には、一義的明確性が確保できないものも多く、ここに難しさがあるのである。