36.CGコードなどに書かれた社外取締役の資質・役割など
50 株主総会における「取締役の入れ替え動議」は許されるか?
株主総会での議案が「ABCDE5名の取締役選任の件」である場合、株主の1人から、「私は「ABCDE5名に代えて、FGHIJの5名を取締役に選任する動議を提議します。」と発言されたとき、この動議は許されるのであろうか?
(1)言葉の意味
最初に「議題」と「議案」と「動議」の違いを説明しておきたい。
①「議題」とは「株主総会の目的である事項」(会社法304条1項)をいい、例えば「取締役5名の選任の件」は議題である。なお、取締役の選任議題は必ず人数を書いておかなければ無効になることに要注意(累積投票制度が保障されている会社法の下では選任する取締役の数が確定していないと各株主の議決権が確定しないからである)。
また、「剰余金処分」も議題である。
②「議案」とは、議題の内容を具体的にしたものであり、株主が議決権を行使して可決されれば直ちに効力の生ずるもの(会社法304条1項でいう「株主が議決権を行使することのできる事項」)である。
例えば議題が「取締役5名選任の件」なら、候補者名を特定して「ABCDE5名を取締役に選任する案」が議案である。
また、「剰余金処分」が「議題」なら、その具体的な内容をなす「普通株式1株につき50円を配当する案」が「議案」である。
③「動議」とは、審議されている議案の内容を修正した新たな議案(いわゆる「修正動議」。例えば配当金を1株50円とする議案に対し1株60円に修正する議案)を提議すること。また、議長がしている会議(株主総会)の進め方の軌道修正を求める議案を提議すること(例えば、「質疑打ち切り動議」「議長解任動議」など)である。
動議案も、一つの議案であるので、動議が成立すれば、審議の対象になる。
なお、動議の提出は「提議」とも「発議」ともいわれる。
(2)動議の提議(発議)資格者
動議を提議するには、株主でなければならない。その数は1人でもいいが、株主総会運営規則などで動議の提議には一定数の賛成者を要するとしている場合は最低その人数を満たす必要がある(参照:国会法57条にはこの人数要件が定められている)。
これは単なる私語と区別するとともに議事妨害を阻止するためとされている。
(3)動議の成立の時とその条件
提議された動議が、審議に供せられることになることを「動議の成立」いい、動議の成立要件を満たしていない場合は、動議は不成立になる。
前述の、動議に一定数の賛成者を要する規定がある場合はそれを満たすことが「動議成立要件」の1つになるが、理論上(a)動議の内容が株主一般の権利を害するものであってはならないことと(b)動議の内容が発議者株主の権利の範囲を超えるものであってもならないことも要件になるであろう。
(4)「取締役の入れ替え動議」の可否
この問題は、「取締役5名選任」議題の下で提出された「ABCDE5名の取締役選任」議案の修正案として、「FGHIJの5名の取締役選任」議案を提出できるか?という問題である。
これはいうまでもなく、許されるものではない。
「ABCDE5名の取締役選任議案」と「FGHIJの5名を取締役選任議案」とは、それぞれ別個独立した議案だからである。
つまり、取締役を入れ替えるのは、「取締役5名の選任」という議題の中の具体的提案であり、ABCDE(の個別性)がその要素になっているのであるから、この個別性を有する取締役を別人にすることはできないのである。
「配当を50円から60円にする案」は「利益処分」という議題の中の「50円の配当」議案であるが、この「50円配当」案の要素は配当であるから、「配当」を「寄附」に変更することはできないが、配当を50円から60円にすることはできるのである。
(5)「取締役の入れ替え動議」が許されるとした場合の弊害
① 株主の権利侵害が生ずること
会社提案の取締役選任議案の場合、株主は、事前の通知(株主総会招集通知書)を受け、かつ、会社から会社法施行規則に定められた取締役候補者の氏名、生年月日、略歴、会社との間に特別の利害関係があるときはその事実の概要その他(その他の中には他社の取締役になっている場合の兼任数などがある)の参考資料の送付または送信を受け、具体的には、どのような属性の人物が取締役として選任の対象になっているかは分かっているが、動議案については、事前の通知もなければ参考資料も与えられていない。それなのに、その動議案に名前の出た取締役候補者について選任の賛否を強いられるのは、株主一般の権利を侵害したものといえよう。
② 少数株主による議案提出権制度を没却すること
株主は、持株要件(数・割合・保有期間など)、権利行使要件(期限が付いている)、手続要件などを満たしておれば、議案を提出する権利が認められている。しかし、前記動議が許されるとしたら、議案提出権のない株主でも、議案の提出が可能になり、これは少数株主の議案提出権制度を没却することになる。
株主の中に、会社提出の取締役選任議案に対抗して、別の取締役選任議案を出したいと思う者がいるときは、そのためにある少数株主の議案提出権を行使するべきである。
コーポレートガバナンス改革が進んできた今日、現実にも、そのような方法による取締役選任議案の提出は増えてきているのである。