45 経営者革命とコーポレートガバナンス改革
44.機関設計の比較論② 監査等委員会設置会社を創設した目的とその内容
(1)従来型の機関設計
①会社法導入時の上場会社の機関設計
会社法導入時の上場会社の機関設計は、すべて監査役会設置会社であった。
この機関設計は、日本固有の機関設計(会社組織)である。
故にこの機関設計は、在来型の機関設計といわれる所以である。
ドイツにもある監査役会設置会社は、監査役会に経営陣を解任できる権限があるところから明らかなように、日本の監査役会設置会社とは全く違った機関設計の会社である。
②「経営と監督の分離」ができていないこと
その日本独自の監査役会設置会社は、「経営と監督の分離」ができていない点で、アメリカ法やドイツ法が採用する機関設計とは、大きく異なる。
(2)新しい機関設計の導入をするも、人気なし
そんな日本の会社法に、2003年、指名委員会等設置会社という機関設計が導入された。外資が、また、日本政府が、経営陣に甘い監査役会設置会社では飽き足らないものがあったからである。
しかし、日本の上場会社のうち、新しい機関設計である指名委員会等設置会社に、機関設計を変更した会社は、実に少なかった。全体の2%程度の上場会社しか、この機関設計にしていないのである。
以上のことは、何度も、繰り返し、本連載コラムに書いてきた。
(3)折衷型機関設計の創設
我が国は、2015年に、我が国独自のものになる監査等委員会設置会社という新たな機関設計を創設した。
これは、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社を折衷した機関設計である。
では、どこをどう折衷したかというと、次の点である。
①監査役会を廃止し。これに代わって取締役会内に監査等委員会を設けたこと。
これにより上場会社は、社外監査役を選任しないでよくなり、その代わりに社外取締役を置く義務が生じた。
これだけを見ると、新しい監査等委員会設置会社を導入したのは、社外監査役を社外取締役に代えることが目的であったかのように見える。
実は、そうなのである。
政府は外資から社外取締役の導入を強く求められており、いずれは全上場会社に社外取締役の設置を義務付ける予定であった(2021年にそうなった)ことから、少し早めに2015年に監査等委員会設置会社を創設し、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に機関設計を変更することを誘導したのである。これをすると、外資の求める社外取締役の設置が果たせるからである。
②「経営と監督の分離」はできているのか?
外資が、上場会社に求めるところは、たんに社外取締役を設置することではない。
社外取締役に大きな権限を与えた「経営と監督の分離」である。
指名委員会等設置会社のような「経営と監督の分離」である。
その意味で言うと、監査機関を、監査役会設置会社にしようが監査等委員会設置会社にしようが変わりはないのである。であるから、社外取締役の設置を義務付ける監査等委員会設置会社の創設だけでは外資は満足することはないであろう。
(4)株価高騰の原因
2023年、とくに5月から6月にかけて日本の上場会社の株価が高騰している。バブル崩壊後33年振りの高値の更新などという言葉が、新聞紙上に踊っているように。
その原因は、何か?
多くのものがあると思われるが、上場会社が、コーポレートガバナンス改革に目覚め、その努力をするようになったこと、その結果として業績の向上が見られたことが、大いにあずかって力があったといいうるのではないかと考える。
(4)やがて、機関設計は指名委員会等設置会社一つに収斂されるであろう。
上場会社が、コーポレートガバナンス改革に目覚め、経営努力をするようになったが、外資はまだまだ満足はしていないと思われる。
物言う株主(アクティビスト)の動きはますます増大するであろう。
そして、やがては、日本の上場会社の機関設計は、指名委員会等設置会社一本に収斂されるのではないかと考える。
これからも、その視点に立って、日々の会社経営のありようと経済事象を観察していきたい。