44.機関設計の比較論② 監査等委員会設置会社を創設した目的とその内容
16 グローバルな経済競争の社会には、グローバルな法の規制が必要
(1)3種の機関設計の特徴
①監査役制度
監査役制度は、明治時代に、ドイツ法由来の会社法(当時は「商法」)の中に設けられたものだが、「経営」と「監督」の分離ができていない点で、上場会社向きではない。
②指名委員会等設置会社(その前の呼び名は「委員会設置会社」)
この制度は、20003年に導入されたアメリカ法由来のもの。
日本の会社法では、唯一、「経営」と「監督」の分離ができた制度であり、アメリカの上場会社は全部、この制度を採用している。
金融庁も東証も、この制度を、事実上推奨している。
また、ドイツを始め欧州各国も、制度名こそ違え、「経営」と「監督」の制度はできている。
③監査等委員会設置会社は、上場会社に社外取締役を設置しやすくするため、社外監査役を廃する目的で、2015年に導入した制度。
「経営」と「監督」の分離ができていない点では監査役会設置会社と同じである。
(2)機関設計ごとの上場会社数
東京証券取引所2022年8月3日付け作成の「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」によれば、同年7月31日現在、
①監査役会設置会社は、
プライム市場全1837社中1062社、比率は57.8%
スタンダード市場全1456社中901社、比率は61.9%
グロース市場全477社中327社、比率は68.6%
全上場会社3770社中2290社、比率は60.7%
②指名委員会等設置会社は、
プライム市場全1837社中72社、比率は3.9%
スタンダード市場全1456社中11社、比率は0.8%
グロース市場全477社中5社、比率は、1.0%
全上場会社3770社中88社、比率は2.3%
③監査等委員会設置会社は、
プライム市場全1837社中703社、比率は38.3%
スタンダード市場全1456社中544社、比率は37.4%
グロース市場全477社中145社、比率は、30.4%
全上場会社3770社中1394社、比率は36.9%
という現状である。
➃これを見て分かること
それは、いかに日本の上場会社が、機関設計(会社組織)を、指名委員会等設置会社(旧「委員会設置会社」)にすることを嫌っているかということである。
導入後19年経っても、わずか2~3%しかない指名委員会等設置会社と、導入後わずか7年で30%を超すほど数を増やした監査等委員会設置会社を見るだけで明らかであろう。
(3)指名委員会等設置会社(委員会設置会社)にすると、どうなるか?
これは、経営陣(執行役。そのトップはCEO)と社外取締役とが対立した場合を考えるとよくわかる。
①社外取締役が率先して、取締役会で、CEOの執行役からの解任を求めることになるだろう(取締役会は執行役の解任の権限を握っているから)。
しかし、社外取締役が過半数を占めていないときは、CEOを解任することはできない。
②そうすると、社外取締役は、社外取締役が過半数を占める指名委員会で、CEO(ほどんどのCEOは取締役を兼任しているので)を次年度の取締役候補から外すであろう(それは法的に可能)。
③また、社外取締役が過半数いる報酬委員会を開いて、CEOの報酬を大幅に減額するであろう(これも法的に可能)。
ちなみに、経産省が2020年7月31日付けで公表した「社外取締役の在り方に関する実務指針 (社外取締役ガイドライン)においても、
ア) 「社外取締役の最も重要な役割は、経営監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長、CEO)に対する評価とそれに基づく指名再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合は、社長、CEOの交代を主導することも含まれる。」と、書かれ、また、
イ) 「社外取締役は、指名委員会等設置会社の場合、指名委員会、報酬委員会、監査委員会いずれかの委員としての働きが期待されているので、これらの中、最低一つの委員会に委員になる義務がある。」と書かれているのである。
(4)法定の指名委員会・報酬委員会と、任意の指名委員会・報酬委員会の違いは、天然のダイヤモンドと人造のダイヤモンドの違い
東証は、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社に対して、諮問委員会として、任意の指名委員会と任意の報酬委員会と設置するよう促した結果、2022年7月31日現在、任意の指名委員会を置いた上場会社は全上場会社中2036社(54.0%)、任意の報酬委員会は2175社(57.7%)できた。
しかしながら、任意の委員会は、法定の委員会に見られる権限は一切ない。
法定の委員会の数はわずか2%台しかないのに、諮問委員会のこの50%台という多さは問題である。
であるから、法定の委員会を天然のダイヤモンド(執行役に対する事実上の解任権限を持つ関係)だとたとえるなら、任意の委員会(そのような権限はない関係)は人造のダイヤモンドでしかない。
人造のダイヤモンドを、いくら天然のダイヤモンドに似せて作っても本物にはなれない。
今、日本の上場会社は、全て「経営」と「監督」の関係をつくるべきであろう。そのために機関設計を指名委員会等設置会社にすべきであろう。
上場会社の経営には、経営陣と監督者の間の適度な緊張関係が必要なのだから。
このような関係が出来上がると、いま上場会社に見られる、病膏肓ともいうべき、データねつ造事件の系譜も断たれることが期待できる。
グローバルな経済競争の中で、日本だけが、微温的な経営体制では、生き残れない。
上場会社は、全て、欧米諸国と同じ法のルール(経営と監督の分離)を構築し、産業競争力の強靱化を果たすべきであろう。
(4)会計基準の統一に倣うべし
日本経済新聞2023年4月23日付けの「リース取引を資産計上へ 会計処理、海外と同等」によれば、リース取引は「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類に分けることができ、日本の会計基準では、「ファイナンスリース」は実質的な資産の購入にあたるものとして貸借対照表上の資産に計上させているが、「オペレーティングリース」はたんに賃借料の支払をするだけのものとして、資産計上はさせず、損益計算書上に営業費用として計上させているが、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準はオペレーティングリースも資産計上させているところから、これに合わせて、日本の会計基準が変更されることが決まった旨を報じた。
このように、会計基準もグローバルな基準で統一することが必要とされているのだから、法制度(経営と監督の分離)もそうすべきであろう。
日本のみが微温的な制度では、他国の産業競争力のばく進を、後塵を浴びながらただ見ているだけになってしまうのではないか。