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15 太った豚を痩せたソクラテスにする方法論

菊池捷男

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テーマ:コーポレートガバナンス改革

15 太った豚を痩せたソクラテスにする方法論

(1)株価純資産倍率PBR1倍は分水嶺
 前回のコラムでは、株価純資産倍率(PBR)1倍を分水嶺として、株価がそれ未満の上場会社を「太った豚」、それ以上の上場会社を「痩せたソクラテス」と形容したが、PBR1倍は、世界的な価値判断の基準になっているようである。
 すなわち、2023年4月4日付の日本経済新聞は、同社の分析記事として、東証株価指数(TOPIX)500に入る大企業のうち、株価が会社解散価値(株価純資産倍率PBR1倍)未満の会社は、同年3月末時点で43%を占めること、これに比べると米S&P500種株価指数の構成銘柄ではそれが12%にすぎないこと、欧州のストックス600ベースでも2割にとどまること、併せて米欧ではPBR2倍以上の企業が過半を占める事実を報じた。
 いかに日本の上場会社が、資本を効率的に使えていない肥満体かが分かる記事である。
 その結果として、同記事は、欧米の機関投資家が日本株離れを起こしている(例として、約9兆円を運用している米国の機関投資家が、日本の現状に失望し、日本株運用の比率を削り、その分を欧州企業の株式の運用に回している事実を紹介)と分析している。
 ちなみに、日本を代表するトヨタ自動車の場合、15年3月末時点でPBRは1.7倍だったが、2023年3月時点ではPBRが0.9倍台になっているとのことである。

 東証と金融庁がコーポレートガバナンス改革を推進するとしてCGコードを策定・公表したのが、15年6月であるので、ことPBRの数字に関しては、コーポレートガバナンス改革を始める前より悪くなっている感がある。

 しかし一方で、コーポレートガバナンス改革の効果として、プライム企業の9割超が、独立社外取締役を全取締役の3分の1以上選任するなど努力の跡が窺われる。
 これが経済効果として数字に現れるのにはタイムラグがあるのだろう。やがては、その効果が見られるのであろう、と期待する。
 折も折、2023年4月7日付日経新聞では、世界で270億ドル(約3.5兆円)を運用する、米大手ヘッジファンドが、日本での投資体制を拡大する方針を立て、従業員をおよそ2割増やすなどを報じた。

 捨てる神あれば拾う神もあるということか。
それとも日本企業の本当の強さが認識されてきたのか。
後者であって欲しいものだ。

(2)太った豚(PBR1倍割れの上場会社)の贅肉をそぎ落とす方法論
①政策保有株式の放出
 PBR1倍割れの上場会社は、資本効率が悪いのであるから、まずは不要不急の資産を現金に換える必要がある。

 その最たる資産は、いわゆる政策保有株式(相互持ち合い株式)になるであろう。これは馴れ合いの株主総会をさせないという意味でも、重要な課題である。

②不動産その他の財産
会社の事業に必要がなくなった不動産なども処分すべきであろう。

(2)筋肉質の体型にする方法論
肥満体の贅肉を落としてできたキャッシュは、次のような事業や施策に使われるべきであろう。

①企業買収(M&A)
 キャッシュは、企業の明日の成長のためにこそ使うべきである。その方法論の一つが企業買収である。
 2018年に、株式時価総額が3.8兆円の武田薬品工業(以下武田)が、乾坤一擲を賭けて、アイルランドの製薬会社シャイアーを買収した事例があるが、この企業買収で支払った対価はキャッシュと株式交換で7兆円であったという。   
M&Aの世界は、このような蛇(じゃ)は寸にして人を呑む(小が大を呑む)買収も可能なのである。
 現在、巨大企業になったGAFAMも、呑舟の魚よろしく、買収を続けている。日本の会社も、キャッシュは、M&Aをはじめ、新たな価値の創造にこそ使うべきである。

②研究開発、人材確保・教育
③増配
増配は株主還元策として重要なことであるが、日本の上場会社は欧米に比べ、配当性向がかなり低いようであるので、上場会社は思いっきり増配政策を採るべきであろう。

(3)自社株買いについて
 株主還元策として、増配と並べて、自社株買いが取り上げられているが、自社株買いには、次のような異論がある。
 すなわち、ニューヨーク大学スターン経営大学院教授で、起業家として有名なスコット・ギャロウェイ教授が著した「GAFA next stage 」(発売日:2021/12/03 出版社: 東洋経済新報社)には、
「この数年、自社株買いが話題になっている。これは株価を上昇させ、経営上層部に巨額のボーナスをもたらす。だが、ビジネスには何の足しにもならない。不景気になれば、経営陣は自社株買いをしたことを後悔するはずだ。経営陣は、自社株買いに使ったキャッシュを取り戻したいと思うだろうが、後の祭りだ。自社株買いは、短期の投資リターンを高めるために企業の将来を犠牲にする時限爆弾だ。」と書かれているのである。

(4)拳々服膺すべき言葉
 本日2023年4月6日付け日経新聞の社説「企業は資本を生かす経営改革の断行を」には、
①「企業の多くが使い道のないお金を手元に抱え、十分に資本効率を高められていないままだ。」
②「日本企業の課題は100兆円規模に膨らむ手元資金を生かせていないことにある。稼いだ資金を将来へ向けた設備投資や研究開発、企業買収に向けてこそ利益の成長がある。」
③「それがみえないなら自社株買いや配当で株主に還元するのが評価を高める道であり、企業は強い危機感で取り組んでほしい。」
➃「機関投資家側の課題もある。企業との対話が、チェック表に印を入れるだけのような形骸化を指摘する声がある。責任ある投資家として投資先の事業の将来性を吟味し提案する姿勢が問われる。」
と書かれている。

 この言葉は、日本の上場会社の経営陣、機関投資家とも、拳々服膺するべきであろう。

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