第1章の5-3 路線価認めず、時価で評価した最高裁判決
契約文言の解釈を巡る紛争より
テーマ(論点)
「後継テナントが居抜き(前の賃借人の施した店舗改装のままの状態)で店舗を賃借する場合でも、賃借人は原状回復費用を支払う義務があるのか?」
ケース
賃貸人A社が、テナントB社に、店舗を賃貸した際、「その賃貸借契約が終了した時点で、B社はA社に店舗の原状回復費用を支払う。」との特約を結んだケース(通常よく見られる契約条項)
裁判例(裁判例は分かれている)
(請求できないとする説)
東京地裁令和4年3月15日判決の判旨
「後継テナントC社は居抜きで賃借したので、B社の退店後は誰も原状回復工事は行っていない。そうであるから、賃貸人A社は賃借人B社に対し原状回復費用相当額の請求はできない。」
(請求できるとする説)
東京地判令和3年2月18日の判旨
「B社が店舗を立ち退く際、A社に対し、原状回復に代えて、一定の原状回復費用を支払うことを約束し支払った(敷金から引かれた)以上は、その後、後継の賃借人が居抜きで賃借したことにより原状回復工事を行っていないとしても、B社はA社に対し、支払済の原状回復費用の返還を求めることはできない。」
契約実務の勘所
この問題があることを前提に、契約条項をつくるとき、この点を明確にする必要がある。