遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1. 監視・監査はできているか?
大和銀行判決は、「取締役は、・・代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理システムを整備すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う・・・監査役は、・・・小会社を除き、業務監査の職責を担っているから、取締役がリスク管理体制の整備を行っているか否かを監査すべき職務を負う・・・」と判示した。
では、ますは取締役の、代表取締役や業務担当取締役に対する監視義務は、果たされているであろうか。
2.三越事件では、社外取締役が監視の効果を挙げた
すなわち、1982年(昭和57年)に、違法行為を繰り返す表取締役を、銀行から派遣された社外取締役が音頭を取って、解任した有名な事件がある。
その詳細は、今でも、インターネットで検索すれば知ることができるので、ここでは書かないが、この三越事件における代表取締役の解任劇は、代表取締役の違法行為(この解任劇の後刑事訴追され有罪判決を受けたほどのもの)が長期間にわたり繰り返されたのに、生え抜きの取締役は誰も解任動議を出せなかったところへ、社外取締役がそれをしたのである。
であるから、社外取締役に、人を得れば、監視の効果は期待できるのである。
では、監査をする者についてはどうか?
3.会社法上の監査機関
会社法上の監査機関は、会社の機関設計の違いによって、次の4通りのものがある。
機関設計 監査機関 社外役員の有無
監査役設置会社 監査役
監査役会設置会社 監査役会 半数以上が社外監査役
指名委員会等設置会社 監査委員会 過半数が社外取締役
監査等委員会設置会社 監査等委員会 同上
この中の指名委員会等設置会社は、2003年4月施行の改正商法特例法の中に委員会等設置会社として導入された(その後会社法の中に移された)アメリカ法由来の制度で、委員会の委員の過半数は社外取締役(上場会社の場合は独立社外取締役)であることから、監査機能が最も高いとされている。
では、監査委員会は信頼できるのか?
答は、監査委員会の監査も、満足のいくものとは言いがたい。
その実例として、2021年(令和3年)に発生した東芝事件での監査委員会の仕事ぶりを紹介する。
東芝は、2020年に開かれた株主総会での議決権行使につき、海外の株主に不当な圧力を加えたのではないかという疑惑をもたれ、監査委員会が、その事実を確認するため、外部の弁護士より成る第三者委員会に調査を依頼した。
そして、監査委員会は、その結果として、「東芝は、海外の株主に対する不当な干渉に関与したことは認められなかった」との意見を発表し、報告に代えた。
しかし、これでは報告になっておらず(報告とは事実を語るものであって意見を語るものではない)、この報告は疑惑を強めるだけの効果しかなかった。
その批判を受けた監査委員会は、第三者委員会の作成した調査報告書を公にした。
その調査報告書の中には、大株主の米ハーバード大学の基金運用ファンドから、「著しく不適切な内容の接触を受けたため、議決権行使をしなかった」との回答が第三者委員会に報告されていた事実が書かれていた。
この事実の判明により、東芝は、2021年6月の定時株主総会で選任を求める予定であった取締役候補者から、このときの監査委員会の委員長ともう一人の監査委員を、候補者から外さざるを得なくなった。
この両名に対する信頼が得られず、取締役として選任される見込みはないと経営陣が判断したのであろう。
「著しく不適切な内容の接触を受けたため、議決権行使をしなかった」という事実が、
「東芝は、海外の株主に対する不当な干渉に関与したことは認められなかった」との監査委員会の意見になっていたからである。
このような監査委員会の仕事ぶりを見ると、監査委員会に信頼を置けといわれても、難しいと言わざるを得ない。
なお、東芝は、我が国の上場会社で指名委員会等設置会社制度を導入した第1号の会社であり、一時は、コーポレートガバナンスの優等生とまで言われた会社である。
その会社の監査委員会が、上記のような監査をしたのである。
監査機能が欠如していたと言われてもやむを得ないであろう。
なお、監査役や監査役会がする監査は、法律上は違法性監査しかできないとされているが、社外取締役が監査委員や監査等委員を務める監査は、違法性のみならず妥当性についても監査できるのであるから、特に社外取締役については、経営トップと忌憚のない意見を交わせる人材が望まれているのである。