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金融サービス仲介業の創設 

菊池捷男

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テーマ:法令満作

金融サービス仲介業の創設 
(本コラムは当事務所の弁護士後藤紀一の調査結果を踏まえたもの)
1.概論
(1)現・預金派の日本 対 株・投信派のアメリカ
日本銀行が四半期ごとに発表している資金循環統計(速報値)を見ると、2022年6月末現在の我が国の個人(家計部門)が保有する金融資産残高は、前年同月比1.3%増の2007兆円、うち54.90%の1102兆円が現・預金(株と投資信託は合わせても10%台)。一方、アメリカは、前年の資料だが株式や投資信託が54.2%(現・預金は合わせても10%台)になるようだ。
(2)笛吹けど踊らず
そのような時代だからか、日本の政府は、長い間「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて、国民に株式投資へ資金を投ずるよう檄を飛ばしてきた。しかし、我が日本の国民は、笛吹けど踊らずの姿勢を変えない。変えないどころか、現・預金比率を、前年同月比、1.3%も高めているほどだ。
(3)法の改正による「金融サービス仲介業」の創設
そのような日本人の個人資産の運用方法を変えようとしたのか、令和3年5月にそれまであった「金融商品の販売等に関する法律」の名称を「金融サービスの提供等に関する法律」(略称「金融サービス提供法」)と改め、中味も大きく改正して改正法を公布し、同年11月から施行した。
この改正法の目玉商品は。「金融サービス仲介業」の創設(改正法第3章以下)だ。

(4)金融サービス仲介業への登録一つで、全てができる
改正前の金融商品販売法時代では、①銀行には銀行法(仲介業者は銀行代理業)、②証券には金融商品取引法(金商法:仲介業者は金融商品仲介業)、③保険には保険業法(仲介業者は保険募集人)があり、仲介業(銀行代理業や金融商品仲介業や保険募集人)を行うには、それぞれの事業ごとに個別に許可か登録が必要であった。
しかし、改正法の下では、創設された金融サービス仲介業への登録一つで、銀行・証券・保険(以下、金融機関等という)すべての分野の商品やサービスを仲介できるようになったのだ。
要は、金融サービス業は、縦割り業種から統合業種に変わったのだ。

2 改正法の要点
(1) 所属制の廃止で「所属」から「パートナー」に
従来は、金融仲介事業は、特定の金融機関等に所属することが要件になっていた。所属先の金融機関等が提供する金融商品の勧誘や説明に関して、所属先金融機関等の指導を受けなくてはならないという仕組みになっていたが、今後は、金融サービス仲介業者として登録が認められた事業者は、特定の金融機関に属すことなく、独立した立場で顧客に資産運用のアドバイス等を行うことができる。「所属」から「パートナー」へということであるが、登録要件のハードル(ことにセキュリティ関係)が高いため、現在、金融サービス仲介事業者は、まだわずかしか存在しない。

(2)金融サービス仲介事業に伴うリスクと対策
従来の仲介業と異なり、金融サービス仲介事業者には、所属金融機関等がない独立の事業者であるため、仲介事業に伴う各種のトラブルにかかわる損害について、金融機関等が責任負担をすることはない。その損害賠償責任は、当該金融サービス仲介事業者にあるが、支払い能力の問題から、顧客保護の対策が必要なる。この点について、改正法では、所属制に代わる新たな利用者保護として、次のような規制を設けている。

①取り扱うことができる商品・サービス について、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とするものは含めない。そこで、仕組預金、デリバティブ取引や信用取引、変額保険等については、取扱できないことにした。
②また、金融サービス仲介業者のシステム障害等によるリスクに対処するため、保証金の供託義務および利用者財産の「受入禁止」規制を設けた。
③契約に至る一連の過程で、金融サービス仲介業者は顧客への情報提供が義 務付けられた。

(3) 金融サービス仲介事業の創設の効用
金融サービス仲介事業の解禁について、いくつかの効用が指摘されている。以下、それらを概観する。
①ワンストップサービスの実現
金融サービス仲介事業が普及すれば、銀行、証券、保険会社のサービスをまとめて取り次ぐことができるので、顧客はワンストップでサービスを受けられることになる。信用金庫、労働金庫、農協などの協同組織金融機関や貸金業者のサービスの仲介も可能となっており、日常生活上のさまざまな金融取引のニーズにワンストップで 応えることができる制度になっている。
②セールストークからアドバイストークに
現在でも、各金融機関等には、顧客に金融商品の内容について説明するファイナンシャルプランナーが在籍しているところがある。このようなアドバイザーは、
自社の販売を強化することを目的としており、どうしてもセールストークの提案になるという特徴がる。
しかし、どの金融機関等にも属していない金融サービス仲介業者の場合は、金融機関等から、販売強化商品を指示されることがない。そのため、特定の金融商品を販売するセールストークはなく、独立した立場からより公平な金融アドバイスをすることができる。
③相談料・手数料がかからない
金融サービス商品仲介業者は、業務委託契約を結んでいる金融機関等から報酬・手数料をもらう仕組みになっているため、顧客は、通常、相談料・手数料を支払う必要はない。そこで、顧客は、納得のいく金融商品が見つかるまでじっくりと相談することができる。
④口座開設から金融商品購入まで対応可能
金融サービス仲介業者は、ただ単に金融商品を提案するだけでなく、金融機関等で新規口座を開設したり、購入をしたり、個別契約をするといった取引実行のサポートも可能になる。そのため、資産運用を始めたいけれど、口座開設や契約手続きが面倒、よく分からないという場合も、金融サービス仲介業者に相談することで、スムーズに取引実行まで進めることができる。
ただし、消費者被害防止のため、金融サービス仲介業者が顧客からの投資資金の授受、有価証券の受け渡しを行うことはできない。
⑤長期的なサポートを受けられる
預貯金、保険はもちろん、有価証券投資も、長期的観点から行うことがある。顧客は、金融商品を購入する場合のほか、その後の資産運用について長期的かつ継続的に金融サービス仲介業者に相談できる。顧客は、信用できる金融サービス仲介事業者を選んで、長期的にライフプランや状況の変化に合わせた資金運用プランについて相談できる。

(4)数少なし、これからに期待
以上のように、金融サービス仲介事業にはいくつかの効用があるが、同制度は、創設直後のこともあり、今のところ、金融―サービス仲介事業者として登録した事業者はごくわずかである。
しかし、やがてはこの制度、大きく成長するに違いない。そのときは、政府の努力も身を結び、リスクマネーが効果的な投資に向かうことになるだろう。
今の日本の弱いところの一つが、改善されることを大いに期待したい。

(5)主要参考文献
参議院「金融商品販売法等改正案」
金融庁「金融商品の販売等に関する法律の改正概要」
金融庁「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料 2020年3月」
松澤 登「新しい金融サービス仲介法制-「フィンテック法」の制定(ニッセイ基礎研究所)」ほか )

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